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GTL

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

GTL: gas to liquids;ジーティーエル)とは、天然ガス一酸化炭素水素に分解後、分子構造を組み替えて液体燃料などを作る技術である。

概要

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炭素数が1個から数個程度と少ない炭化水素ガスを原料として、一度、フィッシャー・トロプシュ反応(FT反応)によって、最大100個以上も炭素が繋がった大きな炭化水素分子を合成してから、水素化分解工程によって、炭素数が11-15程度の灯油や軽油を製造する技術である。

狭義には、炭素数が1個のメタンガスを主成分とする天然ガスを原料として、FT反応を経て最終的に灯油、または軽油を合成する技術を指し、広義には、原料は天然ガスに限定せず炭化水素ガスからやはりFT反応を経て最終的に液体燃料や固形のワックスを合成する技術を指す[1]

フィッシャー・トロプシュ法製造油

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フィッシャー・トロプシュ法は天然ガス(メタン)、石炭、バイオマスを一酸化炭素と水素の混合ガスに転化して、石油を化学合成するのに広く使われる方法である。

  • GTLGas To Liquid = ガス液化油)
  • CTLCoal To Liquid = 石炭液化油)
  • BTLBiomass To Liquid = バイオマス液化油)

この技術により製造された製品は「GTL燃料」と呼ばれており、かつては「人造石油」などと呼ばれていた。また、この技術により製造された軽油や灯油は、「合成軽油」、「合成灯油」、「FTD (Fischer-Tropsch Diesel) 燃料」などと呼ばれることがある。ガソリンのような軽質燃料油の製造例もある。燃料以外ではFT合成で得られたワックスを水素分解・異性化・脱蝋し製造した潤滑油基油をGTL基油などと呼ぶこともある。

利点

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  • 原油よりも可採年数が長いとされ、産出国が一部の地域に限られない天然ガスを利用するため、長期の安定供給が可能とみられている
  • 氷点下162℃の低温で取り扱う液化天然ガス (LNG) とは異なり、常温での流通と使用が可能である
  • ガスに比べエネルギー密度が高くなるため輸送コストが抑えられ、車輌等の燃料としても使用しやすい
  • 原油から精製した燃料油につきものの硫黄分や芳香族炭化水素、重金属などを含まないため燃焼時の排気がクリーンで、排ガスの処理設備が簡単になる[2]

欠点

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  • GTLへの変換時に少なくないエネルギーの損失があり、現状での製造時のエネルギー効率は6割程とされており4割程の損失が生じる
  • 製造時のCO2排出量が多い

製造工程

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製造工程は主に3つからなる。

  1. 水蒸気改質工程:天然ガスのような原料ガスを一度、合成ガス(一酸化炭素と水素)に転換する。
  2. FT合成工程:フィッシャー・トロプシュ法によって炭素同士をチェーン状に繋ぐ。
  3. 水素化分解蒸留工程:長い炭素のチェーンを水素化によって必要な長さに切断し、断片を蒸留によって長さごとに分ける

最終製品を作り出す最後の水素化処理工程はGTL分野においてアップグレーディングと呼称される。

環境への影響

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クリーン燃料
GTL技術により精製した石油製品は、無色、無臭で、軽油灯油の代替品として使用可能である。原料となる天然ガスのような天然資源に元々含まれている硫黄芳香族などの不純物は、GTLを使った製造過程で排出されるが、これらを捕集することは可能である。製造されたGTL製品は結果として精製されて大気汚染の原因となるこれらの不純物がほとんど含まないために、燃焼によって生じるばい塵硫黄酸化物などは少なくなる[2]
CO2の増加
GTL製造工程の各工程の反応は吸熱反応であり反応をさせるために熱エネルギーが必要である。このエネルギーは原料の天然ガスの一部を使い燃焼させることで得られている。この燃焼で、製造に投入された全天然ガスのうち何割かは消費されてしまう。製造に投入される前の全天然ガスが本来持っていた熱量の3割が失われる。またこの燃焼によりCO2が発生してしまう。つまり、天然ガスをそのままの形で利用せずにGTLにして液体化させると、製造のために熱エネルギー源を必要とし、熱エネルギーを天然ガスの燃焼により得ようとすると、燃焼によりCO2が発生し、GTL燃料として利用する前にすで環境への負荷を与えていることになる。当然天然ガスも圧縮冷却してLNGにするためにエネルギーを必要とし、その時にもCO2が発生してしまっているが、燃料として利用する前の製造時のCO2の発生量を比較するとLNGよりもGTLが大きい。また軽油と比較しても製造時のCO2の発生量が大きい。このため、今後GTLの生産増加が起きれば環境問題となると危惧されている[2]
原子力石炭/ガス液化
熱産生時のCO2排出が0ないし極めて少ない、超高温原子炉の核熱をGTL/CTL製造時の熱源として利用するアイディアが提案・検討されている[3]

歴史

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石炭から石油を

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GTLの技術は1923年(大正12年)にドイツフランツ・フィッシャーハンス・トロプシュにより発明された。第二次世界大戦中はドイツ側陣営が利用可能な石油資源が限定的だったため、戦闘機や戦車への燃料供給が賄えなかったことから、ナチス政府が技術開発を指示したことが背景にある[4]。現在、GTLは天然ガスを加工する技術として位置付けられているが、当初は石炭をガス化させたものを化学反応により液化するCTL/石炭液化技術として開発された。開発当時の原油価格ではGTL/CTLによる人造石油は価格競争力がなかったが、戦時にはドイツは英国海軍に海洋封鎖されることが予測されたため、安全保障の観点から研究が推進された。第二次世界大戦中のドイツでは、ナチス政府による保護の下、GTL技術を用いた人造石油が量産され、軍用/民間燃料の一部をCTLでまかなうことができた。

同じ時期に日本でもドイツから導入した技術をもとに、石炭からの人造石油の製造が進められたものの、技術力や物資が不足しており、工場も爆撃破壊されたことから計画通りに行かず、失敗に終わった。1937年(昭和12年)に人造石油製造事業法(昭和12年法律第52号)が制定され、1940年(昭和15年)に福岡県大牟田北海道滝川にGTL工場(北海道人造石油)が建設された。同工場では、ガソリン、軽油及びワックスが生産されたが、生産量は戦時下の需要を満たす規模とはならなかった。大牟田の工場は1945年(昭和20年)に爆撃破壊され、その他の工場も建設途中で爆撃されるなど完成には至らなかった。滝川の工場は終戦後数年間操業を続けたが、採算性に乏しく、1952年(昭和27年)に経営破綻した。

南アフリカ

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第二次世界大戦後、GTL/CTLによる石油製品の製造は各国で縮小していった。唯一、南アフリカでは、豊富な石炭資源を背景として、サソールによるCTL開発・製造が行われており、第一次石油危機(1973年〜)の時期に世界から注目を浴びることとなった。アパルトヘイト政策に対する経済制裁として南アフリカに対する原油の禁輸が行われていた関係から、同国は原油に替わるエネルギー資源の確保策としてGTL技術を用いた石炭や天然ガスからの石油製品の精製を推進していた。

天然ガスから

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民間企業では、ロイヤル・ダッチ・シェル社、三菱商事子会社、マレーシアサラワク州政府及びマレーシア国営石油ペトロナスの合弁企業がマレーシアにプラントを設置し、1993年(平成5年)より商業ベースでGTL技術を用いた天然ガスからの石油製品精製を開始している。

中国でのCTL

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2000年代に石油価格が1バーレル50-100ドル前後にまで上昇したため、華能集団が神木炭田でCTLのテスト生産を2009年に始めている。この試験結果が良好だったことを受け、2016年操業開始予定で大型のプラントを建設中である。

シェールガスから

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アメリカにおけるシェールガス開発に伴いGTLプラント建設計画が商用・試験レベルで複数出ている。大規模なところではシェルとサソールが計画していたが、シェルは建設コストの上昇と長期的な天然ガスと原油の価格差が不確定という理由から計画を撤回している。

利用状況

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日本の状況

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利用

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2001年(平成13年)から2017年(平成29年)まで昭和シェル石油(現・出光興産)はGTL技術を用いた灯油を試験的に発売していた。2001年(平成13年)、同社はGTL技術を用いたE灯油鎌倉市で試験的に発売。2004年(平成16年)12月4日より、横浜市および鎌倉市の一部地域でテスト販売をした。横浜市横須賀市逗子市に範囲を広げ、会員限定で販売。

2005年(平成17年)には、E灯油エコ灯油という商品名に変えて、東京都世田谷区神奈川県藤沢市厚木市などに範囲を広げ、販売した。2006年(平成18年)、川崎市小田原市を除く神奈川県内一部地域、群馬県内の一部地域で地域限定で販売を行った。カタールのGTLプラントの稼動に合わせ、順次販売地域を拡大する方針であった。2007年(平成19年)、川崎市小田原市を除く神奈川県内一部地域、群馬県内の一部地域で地域東京都の一部で限定で販売。ポリ缶方式をやめ、リサイクル可能な一斗缶式に換えて販売していた。2010年(平成22年)には商品名をヒートクリーンに改め、13都府県、2011年11月から取扱店を3倍の400店舗、37都道府県に拡大するほか、自社サイト[5]アマゾンによる通販(運送は西濃運輸)も始めた。なお安全性試験が未完了のため、石油ファンヒーター専用となっていた[6]。しかし2016年(平成28年)には2017年(平成29年)4月28日をもって販売終了とすることが発表された[5]

2005年(平成17年)に開催された愛知万博では、ハイブリッドシャトルバスの燃料として、日本で初めて、ディーゼルエンジンにGTL燃料が用いられた。このシャトルバスは、万博八草駅(現・八草駅)と万博会場間などを走行した。

潤滑油基油としては、シェルが1994年よりマレーシアで製造されたFTワックスを昭和四日市石油にて精製し、GTL潤滑油基油(名称:XHVI)を製造している。これは昭和シェルのエンジンオイルなどに使われている。

研究

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研究開発は石油資源開発石油天然ガス・金属鉱物資源機構などで進められており、2007年9月4日新潟市北区新潟東港に隣接する「新潟市東港工業団地」で実証プラントの起工式が行われ、2009年春から稼働を開始している。

2007年(平成19年)12月から、国土交通省の委託事業で独立行政法人交通安全環境研究所が中心となり、GTL技術を用いた合成燃料による公道走行試験が実施されている[7]

日本以外の状況

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GTL生産プラントは南アフリカ、マレーシア、カタールなどにあり、近年では特にカタールに計画が集中していた。これは政情が安定しており、ガス価格も安価であり、そしてカタール政府による積極的な支援が行われたことが理由であった。しかし2007年以降は様々な理由から計画は中断、または中止されている。大規模計画としてはエクソンモービルコノコフィリップスサソールシェブロンマラソン・オイル英語版などが持っていたがいずれも中止か中断となっている。現在カタールにはサソールとシェルのプラントが存在する。その他にはナイジェリアに建設中のプラントがある。アルジェリアとトリニダード・トバゴでも計画があったが前者は中止、後者は建設中断という状況となっている。生産規模としては以下のShellのPearl GTL計画が最大のものとなる予定。

生産プラント
2008年現在、ロイヤル・ダッチ・シェルはマレーシアに商業用プラントを保有・稼働し、燃料の供給を行っているが、2010年を目途にカタールで世界最大規模の生産設備を稼働させ[8]、より一層の普及を図る方針と伝えられる。若干の遅れがあったものの2011年10月現在、一部商用出荷を始めている模様。

この他、中央アジアトルクメニスタンでは世界第4位の埋蔵量を誇る天然ガスをもとに、単なる産ガス国ではなく、天然ガス由来の高付加価値製品の輸出国となることを目指しており、2019年に国営のトルクメンガスが年産60万トンのガソリン製造プラントを竣工させている[9]

脚注

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  1. ^ 『天然ガスが日本を救う』 205-206頁。
  2. ^ a b c 『天然ガスが日本を救う』 206頁。
  3. ^ 高温ガス炉を用いた核熱利用』(プレスリリース)ATOMICA、2003年9月https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_03-03-05-03.html 
  4. ^ http://www.energyandcapital.com/articles/natural-gas-into-jet-fuel/4687
  5. ^ a b ヒートクリーン
  6. ^ 日本経済新聞 平成23年10月20日
  7. ^ 合成液体燃料のFTD燃料を使用した公道走行試験を実施』(プレスリリース)トヨタ自動車、2007年12月4日http://www.toyota.co.jp/jp/news/07/Dec/nt07_1201.html2009年10月15日閲覧 
  8. ^ カタールにてシェル、世界最大規模のGTLプラント建設』(プレスリリース)昭和シェル石油、2003年10月20日http://www.showa-shell.co.jp/press_release/pr2003/1020.html2009年10月15日閲覧 
  9. ^ 世界最大のガス・ツー・ガソリン(GTG)プラントがトルクメニスタンで完成”. 川崎重工業 (2019年6月28日). 2019年7月1日閲覧。

関連項目

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参考文献

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  • 石井彰『天然ガスが日本を救う 知られざる資源の政治経済学』(初版)日経BP社(原著2008年9月10日)。ISBN 9784822247027