dBm
dBmまたはデシベルミリワット(dBmW)は、電力を1ミリワット(mW)を基準値とするデシベル(dB)の値で表した単位である。電波や光ファイバーなどで信号の強さを表すのに用いられる。dBmで表すことで、非常に大きな値から非常に小さな値までを、以下のように少ない桁数の数字で簡便に表すことができる。
- 1 nW = -60 dBm
- 1 µW = -30 dBm
- 1 mW = 0 dBm
- 1 W = 30 dBm
- 1 kW = 60 dBm
これに対し、1ワット(W)を基準値としたものがdBWであり、その値は、dBmで表した時よりも30小さくなる。
単位の換算
[編集]0 dBmの電力レベルは1 mWの電力に相当する。出力レベルの10 dB(dBmまたはdbW)の増加は、電力が10倍になったことを意味し、3 dBの増加は、電力が約2倍になったことを意味する。すなわち、3 dBmは約2 mWである。逆に、3 dBの減少は、電力が約半分になったことを意味する。すなわち、−3 dBmは約0.5 mWに相当する。
電力P(単位:mW)と電力レベルx(単位:dBm)の換算は、以下のようになる。
Pの単位をワットにすると、以下のようになる
電力レベル | 電力 | 備考 |
---|---|---|
80 dBm | 100 kW | サービスエリアが50km程度のFMラジオ局の送信出力 |
60 dBm | 1 kW = 1,000 W | 電子レンジの素子の放射出力 |
55 dBm | ~300 W | Kuバンド静止衛星の1チャンネルの送信出力 |
50 dBm | 100 W | 人体から放出される熱放射の合計。31.5 THz(9.5 µm)にピークがある。 |
40 dBm | 10 W | 一般的な電力線搬送通信(PLC)の送信出力 |
37 dBm | 5 W | 一般的なアマチュア無線のVHF/UHF携帯無線機の最大送信出力 |
36 dBm | 4 W | 多くの国における市民バンド無線局(27 MHz帯)の最大送信出力 |
33 dBm | 2 W | UMTS/3G携帯電話(出力クラス1)の最大送信出力
GSM850/900携帯電話の最大送信出力 |
30 dBm | 1 W = 1,000 mW | DCS・GSMの1800/1900 MHz帯携帯電話 |
29 dBm | 794 mW | |
28 dBm | 631 mW | |
27 dBm | 500 mW | 一般的な携帯電話の送信出力
UMTS/3G携帯電話(出力クラス2)の最大送信出力 |
26 dBm | 400 mW | |
25 dBm | 316 mW | |
24 dBm | 251 mW | UMTS/3G携帯電話(出力クラス3)の最大送信出力
1880–1900 MHz DECT(250 mW/チャンネル幅1728 kHz) IEEE 802.11jの実効等方輻射電力(EIRP) |
23 dBm | 200 mW | IEEE 802.11n・IEEE 802.11a・IEEE 802.11hの実効等方輻射電力(EIRP) |
22 dBm | 158 mW | |
21 dBm | 125 mW | UMTS/3G携帯電話(出力クラス4)の最大送信出力 |
20 dBm | 100 mW | IEEE 802.11b/gの実効等方輻射電力(EIRP)
Bluetooth クラス 1(到達距離 100 m) |
19 dBm | 79 mW | |
18 dBm | 63 mW | |
17 dBm | 50 mW | |
15 dBm | 32 mW | 一般的なノートPCの無線LANの送信出力 |
10 dBm | 10 mW | |
7 dBm | 5.0 mW | AM受信機の自動利得制御(AGC)回路をテストするのに必要な電力レベル |
6 dBm | 4.0 mW | |
5 dBm | 3.2 mW | |
4 dBm | 2.5 mW | Bluetooth クラス 2(到達距離 10 m) |
3 dBm | 2.0 mW | |
2 dBm | 1.6 mW | |
1 dBm | 1.3 mW | |
0 dBm | 1.0 mW = 1,000 µW | Bluetooth クラス 3(到達距離 1 m) |
−1 dBm | 794 µW | |
−3 dBm | 501 µW | |
−5 dBm | 316 µW | |
−10 dBm | 100 µW | |
−20 dBm | 10 µW | |
−30 dBm | 1.0 µW = 1,000 nW | |
−40 dBm | 100 nW | |
−50 dBm | 10 nW | |
−60 dBm | 1.0 nW = 1,000 pW | 地球は視等級+3.5の恒星から1平方メートルあたり1ナノワットを受け取る[1]。 |
−70 dBm | 100 pW | |
−73 dBm | 50.12 pW | 一般的な短波無線機のSメーターにおける"S9"の信号の強さ |
−80 dBm | 10 pW | |
−100 dBm | 0.1 pW | |
−111 dBm | 0.008 pW = 8 fW | 商用GPSの単一チャネル単一帯域(2 MHz)の熱雑音 |
−127.5 dBm | 0.178 fW = 178 aW | GPS衛星の単一チャネルの受信電力 |
−174 dBm | 0.004 aW = 4 zW | 室温(20 °C)における1 Hz帯域の熱雑音 |
−192.5 dBm | 0.056 zW = 56 yW | 宇宙空間(4ケルビン)における1 Hz帯域の熱雑音 |
−∞ dBm | 0 W | 出力ゼロは、dBmで表現しようとすると負の無限大となる。 |
信号密度(単位面積あたりの電力)は、受信電力に波長の自乗を掛け、 4π で割ることで求められる(自由空間伝搬損失を参照)。
特定の分野では回路が一定のインピーダンスで整合されていることがある。高周波回路では 50 Ω, 75 Ωなどで整合されている[2]。また古典的な業務用音響機器では 600 Ωで整合されていた[3]。この場合、電圧を計測すれば電力がわかる。 50 Ωでは約 0.224 V, 75 Ωでは約 0.274 V, 600 Ωでは約 0.775 V が 0 dBm (= 1 mW) に相当する。ただし 0 dBm はあくまで電力のことなので、インピーダンスが変わればこの関係は崩れる。業務用音響機器は後に 600 Ωで整合されなくなったため、上記の約 0.775 V のことを 0 dBu と呼ぶようになった。
dBmは国際単位系(SI)の一部ではないため、国際単位系に準拠した文書や体系での使用は推奨されない。対応するSI単位はワットである。ただし、2つの数字の単なる比であるデシベル(dB)ならば、使用可能である[4]。
dBm単位での表現は、通常、光学的な出力や電力の測定に使用され、他の種類の仕事率(熱など)では使用されない。仕事率の比較には、電気的・光学的な仕事率以外の例が含まれている。
dBmが業界標準として最初に提案された[5]のは、"A New Standard Volume Indicator and Reference Level"(新しい標準音量指数と参照レベル)という論文である[6]。
関連項目
[編集]出典
[編集]この記事にはパブリックドメインである、アメリカ合衆国連邦政府が作成した次の文書本文を含む。Federal Standard 1037C. アメリカ合衆国連邦政府一般調達局.(MIL-STD-188内)
- ^ Radiant Flux of a Magnitude +3.5 Star
- ^ Carr, Joseph (2002). RF Components and Circuits. Newnes. pp. 45–46. ISBN 978-0750648448
- ^ Bigelow, Stephen. Understanding Telephone Electronics. Newnes. pp. 16. ISBN 978-0750671750
- ^ Thompson and Taylor 2008, Guide for the Use of the International System of Units (SI), NIST Special Publication SP811
- ^ Davis, Gary (1988). The Sound Reinforcement Handbook. Yamaha. pp. 22. ISBN 0881889008
- ^ Chinn, H.A.; D.K. Gannett; R.M. Moris (January 1940). “A New Standard Volume Indicator and Reference Level”. Proceedings of the Institute of Radio Engineers 28 (1): 1–17. doi:10.1109/JRPROC.1940.228815 .