チャイムが鳴る。確か、今のチャイムは授業の始まりを告げるものだったはず。そして、はっとする。昼休みは終わった。やばい。授業、遅刻だ。
 そして、先ほどのチャイムと同時に、目の前の彼……神威先生は私を離した。
「授業、始まっちまったなぁ……」
 白衣の彼は、静かに笑いながら呟いた。そんな彼とは対照的に、私は戸惑っていた。
「どうせだから、このまま……サボりとかは、したくない?」
「え……? で、でも、先生はどうするんですか」
「俺か? 俺は午後からは、授業は入ってない。やることは全部終わったから、ここで寝ようと思ってたんだが」
「こんなところで寝てていいんですか?」
「他の先生達には『図書室で資料の整理をする』と言ってある。図書室付近は誰も寄らないし、その資料は授業で使う。よって大丈夫だ」
「要するに、職員室を抜け出すのは簡単だと……」
「そういうことだ」
 やっぱり、彼は凄い人だ。誰も疑わない完璧な口実で、いつも抜け出しているのだろうか。
「それで? 巡音はどうするんだ?」
「わ、私は……それより、『思ってた』ということは、今は違うんですか?」
「巡音」
 彼の、いつもよりわずかに低い声が私の名を呼ぶ。
「質問しているのは君じゃない。俺だよ」
 神威先生の雰囲気が変わった。いつもの雰囲気でもない。彼が悲しげに想いを告げた、あの時の雰囲気でもない。これは、まるで……。
「君は、どうしたい?」
 そして彼は私を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「俺は、君の気持ちが聞きたいんだ……」
 その声は決して甘くはなく、いつもより静かで寂しそうな声だ。それでも、耳元で囁いた彼の声は、私の鼓動を速めるのには十分すぎた。
「……はぐらかさないで、ちゃんと答えて……」
 それは、彼の願いか、『先生』としての命令か。どちらにせよ、私には答える以外の選択肢はないと思う。
「私は……ずっとこうしていたいです……」
 できるならば、このままずっと彼の腕の中にいたい。彼の白衣をそっと掴むと、私を抱く腕の力が、強くなった気がした。
「でも……それでも、私は授業に出なければいけません」
「……何故? 君が優等生だからか?」
「違います」
「俺から、逃げたいからか?」
「いえ。あなたから、逃げる理由がありません」
「じゃあ……何故?」
 静かに問いかける彼に、私は一瞬間を置いて言った。
「周りに、少しでも置いていかれたくないからです」
「……やはり、君は優等生だよ」
「あと、先生がサボりに誘ってどうするんですか。悪いひとですね」
「本当に優等生だね。君にこれ以上嫌われたくはないな」
 そう言って、彼は私を解放した。
「わかった。君を教室まで送ろう」
「でも、遅れた理由はどう説明するんですか?」
「俺の仕事に付き合わせたことにするよ。資料を探すのを手伝ってもらった、とね。君は心配しなくていいよ」
 彼は私から離れ、扉まで歩いた。そして立ち止まると、言った。
「巡音、おいで」
 彼はカーテンを開けると、廊下に出た。私も出ると、彼は空き教室の扉を閉め、歩き出した。彼の歩く速度も、私に合わせたのかゆっくりだった。
「先生、もしかしてここでよくサボってます?」
「……学生時代、よく来てたものだよ。さすがに仕事中にはあまり来ないよ」
「時々は、来るんですね」
「視線が痛いなあ。まあ、気分転換にはなったから、君を送ったらきちんと資料整理に戻るとするよ」
 だからそんなに怒らないでくれ、なんて笑う彼だって、本当は私が怒ってなんていないことは、きっと気がついているだろう。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【がくルカ】Plus memory【1】

2012/09/30 投稿

本編「memory」の番外編的な位置づけのシリーズです。
改稿にあたり、内容をがっつりいじりました。


プロローグ「私の初恋と白衣の彼」
ルカside https://piapro.jp/t/dZC0
神威side http://piapro.jp/t/Gh88

「memory」
第一話 http://piapro.jp/t/B4mS

時系列
プロローグ→この話→memory1

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投稿日:2022/01/10 00:55:33

文字数:1,483文字

カテゴリ:小説

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  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    なにこれ甘い。
    いい意味でめちゃくちゃ甘いね!
    砂糖の甘みは少し苦手だがこういう甘さはバッチ来い!!
    つーか本編でも隠れたところでもっとくっつけwww
    受験勉強のストレス発散になる!!(利用するなよ

    「私(ry』略しすぎじゃないのかえ?(お前の方がもっと略してんぞ
    見た覚えが薄かったんでさっき読み直してきました!
    やっぱり砂糖の甘みよりこの甘みの方が(ry
    よし、これから脳が疲れたらこっち見にこよう!(ホントの糖分も摂れよ

    2012/10/01 19:36:55

    • ゆるりー

      ゆるりー

      最近がくルカ要素なかったので、甘くできるように頑張りました。
      めちゃくちゃ甘いですか!ありがとうございます!!
      でも、「私の(ry」は今まで書いた中で一番甘いと思います…w
      多分これは二番目くらいかと。
      こういう甘さはいいんですかw私は両方好きですが、どちらかと言えばこっちのほうが(ry

      本編は多分近いうちにくっつきます。
      学園祭編の後半あたりでくっついてもらいます。
      でも二人の性格を考えると、あまりくっついてもらえないんですよね。
      ですので、がっくんに頑張ってもらいますwww

      ストレス発散になりますか!!ありがとうございます!!

      まさかの一文字www

      ありがとうございます!!
      私は両方好きですが、どちらかと言えばやっぱり(ry

      いっそ本当の糖分とりながら見るのはどうでしょう←
      いつもありがとうございます!!

      2012/10/01 23:32:24

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