・・・。
 ・・・・・・。


 ・・・あれ。
 アタシ・・・どうしたんだっけ。
 ・・・そうだ。あの森から少し離れたところで、疲れきってるトコロをミク姉が助けてくれて・・・その後ルカ姉とも合流して・・・。
 ・・・それで。
 ・・・それでどうしたんだっけ・・・。

 ・・・。
 ・・・・・・。
 レン、レン・・・。レンに会いたいなあ・・・。
 でも、きっと・・・。ミク姉もルカ姉も駄目だって言うんだろうな・・・。
 ・・・・・・。
 ・・・。


 レン・・・。


 ・・・駄目だと言うなら、それなら。
 ・・・私から。



 「・・・せんせー」
 あれから何を言えば良いかわからず、お互いに黙りこんでいた時、幼い少女が一人、この暗い待合室に入ってきた。その少女はピンクの水玉模様のパジャマに、少女の上半身とほぼ同じ大きさの熊の縫いぐるみを両手で抱えていた。黒い髪は綺麗に二つに結っていて、歩く度にそれが揺れている。少女は縫いぐるみで顔の下半分を隠しながら、大きな瞳でこちらを見つめていた。俺がいるのに気づくと、ピクリ、と体を大きく動かし、縫いぐるみを強く抱きしめて、そそくさと氷山の後ろに隠れてしまったが。
 「・・・ユキちゃん!何してるの、こんな所で!」
 氷山が驚いたような声を上げた。はて、どうしたのだろうか。様子から見るとあのユキと呼ばれた少女は、ここに入院している子のようであるけれど。
 「・・・せんせー、・・・このお兄ちゃん、だあれ?」
 「え、あ、ああ」
 いきなり指をさされ、少しばかりたじろく。氷山に目をやると、彼は俺と少女を交互に見ながら、まだ慌てているようであった。
 「・・・俺はね、鏡音レンって言うんだ。・・・知り合いが倒れちゃってね、それで来てたの」
 少女と同じ目線になるようしゃがみこみ、笑いかける。知り合いというのは嘘だが、とっさに他の言葉が浮かばなかったのだ。まあ、仕方あるまい。
 少女は俺の顔をじいっ、と見つめると、二回程瞬きをし、へんななまえ、と呟いた。そう言われるのは慣れているので別になんとも思わない。
 「君は?」
 「私?私はねー、歌愛ユキっていうの!」
 少女はにっこりと、少女らしい笑みを浮かべて答えた。可愛らしい少女だ。
 「この子はね、にゃんた!」
 ユキちゃんは熊の縫いぐるみを俺の目の前に突きつけ、そう言った。熊の名前がにゃんたか、と妙な気分になりながら、ユキちゃんに質問する。氷山は唖然とした顔でこちらを見つめていた。
 「にゃんたか。かわいい名前だね。どうしてにゃんたって言うんだ?」
 「あのねえ、くまさんはにゃーって鳴くんだよ!だから!」
 はて、そうであっただろうか。むしろガオー、とか、そんな感じだったような気がしなくもないが、この少女にはあれがにゃー、に聞こえているのだろう。もしくは、猫と熊は耳の形が違うだけで同じ種族だと思っているのかもしれない。何故そんな事が言えるかというと、俺も小さな頃はそう思っていたからである。
 「そっか、そっか。だからにゃんたなんだな」
 「うん!」
 ユキちゃんは元気一杯にそう答えた。やはり小さな子供というのは可愛らしいものだ。年は見た限り九歳程であろうか。そんな子供が、何か病気にかかっているのか。そう思った途端、胸が痛むような、妙な感覚を覚えた。
 俺との会話を終えると、ユキちゃんは、あ、と一言漏らし、せんせー、と言いながら氷山の白衣を引っ張り出した。そんな仕草も可愛らしくて、思わず頬が緩む。
 「あ、ああ、そう言えばどうしたんだい?ユキちゃん」
 氷山が少しばかり唖然としたまま答えた。ユキちゃんと俺が初対面にもかかわらずすぐに打ち解けていたのに驚いたのであろう。
 「あのねえ、先生、さっきそこですごく辛そうにしてるお姉ちゃんが倒れそうになって歩いてたんだけど、あのお姉ちゃん、知ってる?大丈夫なの?」
 氷山の顔から先程までの唖然とした表情がスーッ、と引いていき、真剣な顔つきに変わった。俺も不安を感じ立ち上がると、それと入れ替わるように氷山がユキちゃんの元にしゃがみ込んだ。
 「・・・どこで見たの?そのお姉ちゃん」
 「すぐそこだよ。心配なら早くいかないと、お姉ちゃん行っちゃうよ?」
 俺は先に、待合室から出て廊下を見回した。二、三度見回すが、薄暗いせいでよくわからない。目を凝らしてもう一度見回そうと左を向いた、その時。
 ・・・何か動いた気がした。
 ・・・いや、“気がした”ではない。動いたのだ。
 薄暗い廊下で、それははっきりと見えた。金の髪の、俺と同い年くらいの少女。その少女は、片足を引きずり、壁に手を付いてゆっくりと歩いていた。
 「先生、あそこ!」
 思わず叫び、振り返る。それと同時に、氷山が走って廊下に飛び出していった。俺も続いて飛び出す。二人分の靴の音が、静かな廊下に大きく響いた。
 氷山が先に少女の元に辿り着き、今にも倒れそうな少女を抱きかかえた。俺もすぐに氷山を手伝って、少女に肩を貸す。氷山が大丈夫かい?、と少女に声をかけたが、彼女は無反応であった。
 ふと、顔を見ると、
 ・・・、あの、俺が電話して運んでもらった少女であった。
 思わず体が強張った。もしかしたら、もしかしたらと思ってはいたが、まさか。あんなに弱っていたあの少女が、何故こんな所で、足を引きずってまで。
 近くで見た少女の顔は、ひどくやつれてはいたものの、しかし、とても綺麗に整った、可愛らしい顔をしていた。弱々しく、薄く開かれた瞳は、美しい青に染まっている。まるで、瞳の中に空でも広がっているかのような・・・。

 ゆっくりと、少女の瞳が、あの綺麗なガラスの瞳が、こちらを見つめてきた。

 そして、その目が、またゆっくりと見開かれていく。

 「・・・レン」

 「・・・え?」

 ・・・弱々しい、しかし、凛とした声であった。
 震えている少女の声に、その言葉に、俺は耳を疑った。


  --続く--

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

鬼さん此方、手の鳴る方へ。 -八-

レン君視点に戻りました。ユキちゃん登場。どうしても先生と絡めたかったんです。はい。

熊と猫は同じだと思っていた時期が私にもありました。

ガラスの瞳とか、そう言う表現がすごく好きだったのでついやってしまいました。

・・・ところでこの小説、話が進むにつれ、ただでさえ読みにくいと言うのにテンポが速くなっている気がします。またも勉強不足を痛感。orz。

・・・すみません。

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閲覧数:264

投稿日:2011/06/19 01:19:40

文字数:2,478文字

カテゴリ:小説

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