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夕行列車

「ねぇ、音来(にらい)! 海行こう!」
アルバイトの終わり、体力に余裕のあるシアンは気分で提案する。
制服の緑色のエプロンを脱いでさっぱりとした表情を見ると音来の顔は引き攣った。
「私まだ勤務中なんですが……。」
橙色の光が世界を包む頃。
誰かが家へ帰る寄り道になるこのコンビニで一番客の多い時間帯だ。
社員で絶賛サビ残中の音来は到底帰れそうにもない。
そんな状況を知ってか知らずか、シアンは悪い笑みを浮かべる。
「でも、今日はGいるじゃん。たまにはサボろうよ〜。」
黒い虫と同じあだ名で呼ばれる不在がちな店長が今日はいる。
表には出ないGが、レジ前にできつつある長蛇の列を捌ける気はしないが…。
もう何連勤しているか数えるのもやめた音来は、たまには鬱憤を晴らしにサボってもいいか、と考えた。
別に自分の店じゃないし……。
シアンは満足そうに笑むと、一足先に店を出る。
音来も客足が少なくなった隙をついて店を抜けた。
「それじゃあ行きますか。海。」
山々に囲まれた立地にあるコンビニの裏、音来は自分の車の鍵を開ける。
しかし、シアンはその手を止めた。
「あのね、電車乗りたい!」
「電車!?」
少し距離のあるところに駅はある……が。
それは海岸沿いの都市部に出られる、三時間に一本のワンマン列車。
日は山陰に隠れて、反対側の空は暗くなり始めている。次に出る電車が終電。
「帰って来れないですよ、それ。」
呆れ顔の音来に構わず、シアンは活発に跳ねる。
「別に、朝まで遊べばいいじゃん。飲みしたい!飲み!音来の奢りね!」
「お前、未成年じゃないですか。」
「音来が大人だからだいじょーぶ!」
シアンはただ楽しそうに満面の笑みを浮かべる。
音来は一つ大きなため息をつくと、困ったように笑った。
「サボりも奢りも今回だけですよ。」
「ケチ。毎回奢って。」
「嫌です。」
二人は笑いながら駅へと向かう。
ちょうど待っていたかのように到着した列車に乗り込んだ。
心地よく揺られる電車の中で何をするか語り合う。
谷から再び差した夕日に照らされながら、二人は海へと向かうのだった。

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投稿日:2026/07/10 01:38:13

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カテゴリ:その他

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