助走が短すぎる飛行機の動画、アガる。MIT生まれの9人乗り機が量産工場へ
助走が、びっくりするほど短い!
MITの授業課題から生まれたアメリカの航空スタートアップ「Electra」が、オハイオ州に8億5000万米ドル(1米ドル150円換算で約1,275億円)を投じて量産工場を建てると発表しました。
作るのは9人乗りの旅客機。主翼にプロペラが8基ずらりと並んだ、ちょっと見慣れない形をしています。
ただ、驚きどころは投資額じゃありません。この飛行機、飛び立つのに必要な距離がサッカーコート1面分だけというのです。
まずは動画をご覧あれ。ふわっときて、ふわ〜〜〜〜っと上がっていきます。
サッカー場があれば、空に出られる
必要な長さは100メートル少々です。羽田空港の滑走路が2500〜3,000メートル級、セスナ機に乗れる調布飛行場でも800メートルだそうなので、ケタもスケールも違いますね。
MIT Newsは「はしけ(バージ)や駐車場、サッカー場のような場所からでも離着陸できる」と書いています。
「空飛ぶクルマ」と聞いて浮かぶのは、ドローンを大きくしたような機体が垂直にふわっと浮く絵でしょう。eVTOL(電動垂直離着陸機)というやつです。Electraはそれと違って、垂直に浮くのではなく、水平に、とんでもなく短い距離で飛び立つほうを選んだんですね。
翼に風を吹きつける
車の窓から手を出すと、風でぐいっと持ち上げられる。あれが揚力です。翼は風が当たって初めて浮く力を生むので、ふつうの飛行機はまず自分で走って風を作ります。滑走路は「風を作るための助走路」なんですね。
Electraは、ここをひっくり返しました。主翼に並べた8基の電動モーターで、翼の上に自分で風を吹きつけてしまう。走って風を作るのではなく、止まったまま風を浴びせる。翼のほうは「おっ、もう飛べるぞ」とスタンバイできる。
動力は、機首のガスタービン発電機と床下のバッテリー2基のハイブリッド。
離着陸のときだけバッテリーが力を貸し、巡航中は発電機だけで飛びながらバッテリーを充電します。開発を率いたElectra技術開発責任者のChris Courtin氏は、こう説明しています。
ガス発電機は、普通の飛行機のタービンエンジンとほぼ同じものです。違うのは、プロペラを回す代わりに発電機を駆動するところ。おかげでエンジンを離着陸ではなく巡航に合わせて設計できるので、より小さくて効率のいいものが積めるんです。
結果、航続距離は約1,200マイル(約1,930キロメートル)、巡航速度は約200マイル毎時(約320キロメートル毎時)。東京から那覇まで飛んでも、まだ余る計算です。
そしてCourtin氏が「この技術の最適」と呼ぶのが、50〜250マイル、つまり80〜400キロメートルの移動。東京から仙台、あるいは名古屋くらい。日本でいえば新幹線の距離感です。
静かさも効いてきます。プロペラの数が多いほど、1基あたりの負担が減って音を小さくできる。ヘリコプターが「うるさいから」という理由で飛べずにいる場所は、街のなかにいくらでもありますから、ここは地味に大きい話です。
2017年の授業から、96エーカーの工場へ
始まりは、MITの「16.886(航空輸送システム・アーキテクティング)」という授業でした。eVTOLに着目していた2017年、Courtin氏のグループは「本当にそれが最適解なのか」と別案と比べてみた。そこから出てきたのが超短距離離着陸機というアイデアでした。
彼はその後、TAとして、さらに博士論文としてこの構想を追いかけ続けます。学生たちは縮小模型を作り、MITの「ライト兄弟風洞」で回して、成立することを確かめました。2019年、Aurora Flight Sciences(のちにBoeingが買収)を率いていたJohn Langford氏が加わり、Electraが正式に設立されます。MITの教授陣も創業時からの技術顧問として携わります。
工場ができるのはオハイオ州のSpringfieldとClark County。96エーカー、約39ヘクタールですから、東京ドーム8個ぶんくらいの敷地です。着工は来年、初期段階で年400機、次の段階で年800機の生産能力を見込み、1,975人の新規雇用が生まれる見通し。
MIT Newsは「エンジン付き有人飛行が始まった州」と書いています(ライト兄弟の自転車店があったのはたしかにオハイオ州デイトン。初飛行そのものはノースカロライナですけど、まあ、そこは)。
で、いつ乗れるんですか
いま実際に飛んでいるのは、2人乗りの試作機「EL2」だけです。
2023年に初飛行して、これまで200回以上飛んでいます。オハイオで量産される9人乗り版については、MIT Newsも飛行実績に触れていません。現在地は「もう乗れる」ではなく、「本気で作りはじめた」です。
Courtin氏が言うように、いまどき新しい空港を作るのはきわめて難しい状況です。土地の問題もあるし、建設費も高騰してますからね。でも、サッカー場くらいの広さの場所を見つけるのは難しくない、と。座席あたりのコストを下げられれば、富裕層の乗り物ではなく多くの人が使えるものになる、とも。
日本にも、新幹線が通らず、いちばん近い空港まで車で2時間という町がたくさんあります。そういう場所にだいたいあるのが、学校のグラウンドだったりする。滑走路を新しく引く話ではなく、すでにある平らな場所を使う話。
エアタクシーや有人ドローンに加えて、日本でも飛ぶ姿を見たいところです。
Source: MIT News, 乗りものニュース, 東京都港湾局