「オイサ、オイサ」。威勢のよい掛け声とともに、目の前を走り抜けていく「山笠」と舁き手。重さ1トンにもなるという「山」はものすごい速さで目の前を通り過ぎていった。一瞬の出来事に感動する間もなく、あっけに取られた。
15日午前2時30分ごろ。「追い山」スタートの2時間半前だが、既に櫛田神社近くの沿道は人で埋まっていた。連休最終日で、前日降っていた雨は上がっていた。沿道の観客からは「去年はこんなに人がいなかった」との声が漏れ聞こえてくる。
私は、山が櫛田神社境内を回って道路に出る最初の交差点の角に陣取ることにしていた。沿道ではそこが絶好のポジションと教わっていた。しかし、すでに脚立とカメラを携える多数の先客が場所を占めており、私は何とか3列目の位置をキープできた。山笠の勇姿を収めようという観客たちとともに、本を読みながら、じっと我慢してその時を待った。
そのうち、「追い山」開始の10分前になった。辺りを見渡してみると、大群衆の中に自分はいた。気づかないうちに大勢の人が集まっていたのだ。周囲は山笠開始を今か今かと待ちわびる熱気にあふれていた。いよいよ追い山が始まる。
午前4時59分。「ドドン」という太鼓を合図に一番山笠が走りだした。沿道から歓声が湧き、間もなく、山笠の男たちに勢い水(きおいみず)がかけられるのが見えた。山が神社の境内に吸い込まれるように消えると、沿道は静寂に包まれた。しばらくすると、「祝いめでた」の歌が神社の方から聞こえてきた。神社から少々離れているので、歌はかすかにしか聞こえないが、私の周りでも手拍子を打ち、歌っている人がいた。神社周辺の興奮はこちらにも伝わってきた。歌が終わると、神社から山と舁き手が飛び出してきた。いよいよ山が私の前に来る。
「オイサ、オイサ」と掛け声を上げ、交差点に近づく山と男たち。山を担ぎ疾走する男たちに沿道から歓声と拍手が浴びせられる。びっくりするような勢いで交差点に突入した山は、ほぼ直角に向きを変えて目の前を通り過ぎ、その勢いのまま走り続け、あっという間に見えなくなった。
初めて見る山笠に感動したというより、あまりの迫力とスピードに「あぜんとした」と言う方が正しいだろう。一瞬の出来事に頭の整理が追いつかなかった。ぼーっとしている間に、二番山笠が走りだしたのが見えた。
沿道を覆い尽くす雰囲気も感じようと、交差点から離れ、山笠が走るルートに沿って歩こうと思った。しかし、混雑する群集に阻まれ、ほとんど前に進むことができない。そうこうしているうちに三番、四番・・・と山笠が走り去っていく。そのたびに拍手と歓声が湧く。早朝だというのに、あまりの熱気に圧倒されるばかりだった。
人をかき分けて歩く間に、最後の山笠が通ってしまい、ゴール地点の「回り止め」まで行き着くことはできなかった。沿道から何とか写真は撮れた。熱気冷めやらぬまま、観客たちは駅に向かってぞろぞろと歩いていた。私も帰路に就くことにした。
初めての山笠は「あぜん」とした感覚を残したまま終わった。まだあの光景を整理しきれていないというのが正直な感想だ。来年もあの熱気を肌で感じたい。(7月16日、山田亮太朗)
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