ウイルス隔離でサイバー防御◆米国防総省が認めた「HP Sure Click Enterprise」とは
2026年09月07日
米アンソロピックの「クロード・ミュトス」に代表されるフロンティアAIはその脆弱(ぜいじゃく)性発見能力の劇的向上により、経済安全保障上の重大な懸念をもたらしています。サイバー攻撃者がゼロデイ脆弱性(開発者が気付いておらず、修正プログラムがない状態の弱点)を発見・悪用し、社会的影響の大きい基幹インフラがサイバー攻撃で狙われるリスクは高まりました。こうした中で、グローバルIT企業のHPはマルウエア(悪意のあるソフトウエア)を隔離して封じ込める独特のソリューションを提供し、日本でも注目を集めています。大津山隆・株式会社 日本HP エンタープライズ第一営業統括 営業戦略本部 ビジネスデザイン部 プログラムマネージャーに聞きました。
狙われるエンドポイント端末
情報処理推進機構(IPA)の「情報セキュリティ10大脅威2026」によれば、組織向け脅威では「ランサムウエア(身代金型コンピューターウイルス)攻撃による被害」が6年連続でトップでした。
2025年には、アサヒグループホールディングスやアスクルなどが標的となり、影響はグループ企業や取引先にも及びました。いずれも業務妨害型の攻撃で、被害は長期化、高額化しています。
日本HPでエンドポイント(PCなどの端末)関係のセキュリティ事業を立ち上げた大津山氏は、「(大企業の)業務が止まると社会に混乱が起きる。(経済安全保障推進法で定める)基幹インフラ(電気、金融、医療など16分野)に対する攻撃の影響は特に大きい」と懸念します。攻撃者は多くの場合、システムの末端にあるエンドポイント端末を狙います。攻撃は高度・巧妙化し、従来のウイルス対策ソフトによる水際防御だけではもはや守り切れません。このため、端末の動きを常時監視して異常を検知し、異常があれば被害端末をネットワークから素早く切り離すEDRが主流になってきています。
「見えない」サイバー攻撃
しかし、攻撃者たちは、EDRをかいくぐる手法を編み出しています。LotL(環境寄生型)による攻撃のステルス化です。
最近のランサムウエア攻撃は、①事前入手したIDとパスワード(PW)を使って正規ユーザーとして侵入し、②「権限昇格」により一台のPCを完全にコントロール下に置き、③最終的にネットワーク内のPCやサーバーのデータを暗号化する、の三段階に整理することができるでしょう。
ステルス化手法の一つがLotL。PCの管理に使われる機能や正規のツールを悪用する手口です。悪意のある動きを、正常な管理作業と見分けるのが難しい。また署名のある正規かつ脆弱性のあるドライバーをインストールし、自ら脆弱性を悪用して全ての操作が可能なカーネル権限を奪い、基本ソフト(OS)のセキュリティ機能を止めてしまう「BYOVD」も多用されるようになってきています。
さらにPCの土台となるマザーボードにある、BIOS(基本入出力システム)を搭載するフラッシュメモリーにマルウエアを隠す攻撃も報告されています。復旧のためにハードディスクやSSDなどのストレージを完全消去してOSを入れ直すクリーンインストールを行っても、フラッシュメモリーに隠されたマルウエアを起点に、二次、三次攻撃が可能になります。
アサヒグループホールディングスの攻撃で使われたと言われているQilin(キリン)などのRaaS(ラース=犯罪者組織向けに、ランサムウエア攻撃ツールをパッケージとして提供するサービス)が、システムへのアクセスに必要なID・PWを事前入手できるのは、ID・PWの窃取に特化したインフォスティーラーと呼ばれるマルウエアが世界中に拡散しているのが、理由の一つです。
大津山氏は、「ほとんどの会社がIDを盗まれていることを前提にしないといけない状況になっている。たぶん、御社(時事通信社)も」と話しています。ランサムウエアの脅威は、ひとごとではありません。
攻撃を仮想環境に封じ込め
こうした攻撃手法に対抗する正攻法は、すべてのアクセスを疑ってかかる「ゼロトラストセキュリティ」でしょう。万が一感染しても、ユーザーやデバイスに最小限のアクセス権限しか与えない「最小特権」や認証の強化で広がりを食い止め、簡単にネットワーク全体が侵害されることを防ぎます。課題はお金と時間、手間がかかること。リソースが限られる組織にはハードルが高いかもしれません。
一方、HPは、ハード、ソフト両レベルのセキュリティ対策ソリューションで、攻撃の入り口となるエンドポイントを集中して守るアプローチを並行して進めることを推奨します。ネットワーク全体をカバーするゼロトラストと比べると、「すぐに効果が出て、コストもかからない」(大津山氏)のが特長です。
ハードレベルのソリューションの一つが「HP Sure Start」です。法人向けHP製PCに搭載されています。万が一、BIOSが改ざんされたりしても、専用の監視チップが検知し、安全なバックアップから元の正常な状態へ自動で復元します。ランサムウエア攻撃をされることになっても、大量のPCの復旧にかかる手間と時間を大幅に短縮することが可能になります。
他に類を見ないユニークなアプローチが、ソフトウエアソリューションである「HP Sure Click Enterprise」です。ソフトウエアを使ってPC内を論理的に分割する「仮想化」の技術を使い、マルウエアを「マイクロ仮想マシン」と呼ぶ環境に隔離・封じ込めます。「LotL・BYOVD攻撃があっても、攻撃はマイクロ仮想マシン内にとどまり、PC本体に及ばない」(大津山氏)。
日々の業務に必要なウェブ閲覧やメール開封、ワードやエクセルといったタスクは、その都度生成されるマイクロ仮想マシン内で実行されます。たとえ、マルウエアが侵入し、ファイルなどの改ざん、不正ファイルの作成が行われても、タスクが終わると、封じ込めたウイルスごとマイクロ仮想マシンは消去されるため、攻撃をなかったことにできます。
会社に例えましょう。来訪者に悪意ある人物(マルウエア)が紛れ込んでいると仮定して、重要情報のあるオフィスから隔離された部屋(マイクロ仮想マシン)に全員を通します。そこで商談などの仕事(タスク)をこなします。悪意ある人物が途中で暴れ出したり、オフィスに侵入しようとしたりしても、隔離部屋からは出られず、業務には影響しません。
ユーザーが意識することはなく、従来通りPCを使えます。封じ込めたマルウエアの動きは全て記録され、対策の参考にできます。大津山氏によれば、今問題になっているUSBメモリ経由のマルウエア感染にも有効だといいます。
HP Sure Click Enterpriseはリリース以来、六百億回以上のマイクロ仮想マシンを生成してきましたが、侵害の報告は一度もありません。
最初の大規模ユーザーは米国防総省(ペンタゴン)で、10年以上、5万人規模で使われています。言うまでもなく、ペンタゴンは世界で最も激しいサイバー攻撃にさらされる組織の一つです。日本でも中央省庁や地方自治体、金融機関を中心に導入が始まっています。
病院にも合うHP Sure Click Enterprise
2026年、改正経済安保法が成立し、基幹インフラに「医療」が加わりました。医療デジタル・トランスフォーメーション(DX)が進む一方で、病院を狙うランサムウエアの脅威は増大しています。医療DXの目玉の一つが電子カルテシステムですが、機能停止は文字通り命に関わります。万一を考えて、インターネットから分離する「ネットワーク分離」が行われるのが一般的です。
しかし、物理的なネットワーク分離では、医療情報ネットワークとは別にネット専用PCを用意しなければなりません。そのセキュリティ対策も含め、多額の設備投資が必要です。PC使い分けを強いられる医師や職員の負担も小さくないでしょう。
大津山氏は、HP Sure Click Enterpriseは「病院にもよく合うのではないか」とみています。「ネットワーク分離を非常に安価に、論理的に実現できる」ためで、地方自治体でも三層分離という形で多くの導入実績があります。
時代がHPに追い付いた
HPの源流は、1939年創業のヒューレット・パッカード社です。シリコンバレーの老舗企業で、PCやプリンターなどを世界で製造・販売してきました。「セキュアなプロセスがセキュアな製品を造る」をモットーに、インターネットの黎明(れいめい)期からIBMやマイクロソフト、インテルなどとともにIT業界のセキュリティを主導。企画・設計段階から対策を組み込むセキュリティ・バイ・デザイン思考は、日本国内の生産拠点である、日野工場(東京都日野市)など世界各地のHPに受け継がれています。
かつて日本では、厳しいセキュリティ基準のHP製品に対し、「さすがですね」と感心されることはあっても、そこまでのセキュリティを求める企業は限られていました。
しかし下請け・再委託構造のサプライチェーン(供給網)を狙ったサイバー攻撃は激しさを増し、設計、調達、製造、流通、運用、廃棄に至る製品ライフサイクルの過程でマルウエアが仕込まれるリスクも出てきました。日野工場をはじめとするHPの製造工場では、サプライヤーを含めた万全のセキュリティ対策が施されています。
外国政府の影響度合いを確認するため、基幹インフラの特定重要設備などを対象に事前届け出を求める制度も2024年に始まりました。基幹インフラにIT機器などを供給する企業は、5%以上の議決権を有する者の名称や設立準拠法国、議決権保有割合などの情報を国に提出せねばなりません。日本HPは米HP Inc.の100%子会社で、その設立準拠法国は米国です。
経済産業省は2026年3月、企業のセキュリティ対策基準を評価・可視化する「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」の構築方針を公表しました。「IT機器の出自まで遡ったリスク管理を求められる時代には、サプライチェーン全体でのセキュリティ対策の底上げが必要」(大津山氏)となり、ようやく時代がHPに追いついてきたと言えるでしょう。基幹インフラや防衛関連で相談・問い合わせが増えています。
日本HPは、経済安全保障対策会議・展示会(ECONOSEC JAPAN)2026に初出展します。大津山氏は「セキュリティや安全保障に対する感度の高いお客さまにお会いして、他社と差別化できる技術や取り組みをアピールしたい」と意気込んでいます。
HP/日本HP 源流は1939年に米カリフォルニア州パロアルト市の小さなガレージで創立されたIT大手ヒューレット・パッカード社。このガレージは、シリコンバレー発祥の地として知られる。以来、革新的なテクノロジーを搭載したPCやプリンターなどを製造・販売してきた。日本では1963年に横河電機との合弁会社「横河ヒューレット・パッカード」を設立(1999年に解消)。2015年、親会社の分社化で米「HP Inc」が誕生したのに伴い、日本法人(旧日本ヒューレット・パッカード)も分社化され、PCとプリンティング事業を承継する株式会社 日本HPが発足した。
大津山隆(おおつやま・たかし)氏 1964年福岡市生まれ。1990年3月、九州大学総合理工学研究科修了。同年4月、横河ヒューレット・パッカード(現日本HP)に入社。ソフトウエアのマーケティング、サーバーのマーケティング、SIの営業に従事した後、2018年よりエンドポイント関連のセキュリティビジネス開発を担当する。2022年から現職。
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提供:株式会社 日本HP
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