『超訳ニーチェの言葉 II』(フリードリヒ・ニーチェ 著、白取春彦 編訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、以前ご紹介した『超訳ニーチェの言葉』に続く第二弾。
前作の基底に流れていたものが「自尊」「生の歓びの獲得」「自己超克」だったのに対し、本書の底流にあるのは「生の創造」「苦難の引き受け」「高みへの意志」なのだそうです。
「生の創造」とは、自分の毎日の生き方を一日一日自分の手で創っていくということを意味する。(「はじめに 本書の旋律について」より)
「苦難の引き受け」とは、文字通りに、人生における苦難を自分が引き受けるという意味だ。(「はじめに 本書の旋律について」より)
「高みへの意志」とは、人としての能力の果てまで行ってみようとする意志のことだ。(「はじめに 本書の旋律について」より)
つまり本書に収められたニーチェのことばは、人間として持っておきたい基本的な、普遍的な、そして意義深い考え方を凝縮したもの。そう考えることができそうです。
きょうはIII「己について」のなかから、いくつかのことばをご紹介したいと思います。
自己を超えた目標を持て
きみは、きみの目標をどこに置こうとしているのか。 誰かの目標を真似ているのか。あるいは、少しだけ頑張ればすぐに手が届きそうな場所を目標としているのか。もしくは、ファンタジーに満ちた目標を思い描いているのか。(049より)
どういう目標であろうとも、目標は自分自身を超え出たところに置かなければならないとニーチェは説いています。しかも、過去の人間たちと連なる道の遥かなる果てに。たしかに、過去の人からの学びを自分の人生に活かすことは有意義なのではないでしょうか。(『生成の無垢』「ツァラトゥストラによせて」)(049より)
欠点という名の教師
人それぞれに欠点や弱点というものがある。多くの人は自分の欠点や弱点を嫌い、眼をそむけようとする。また、人からその部分だけは見ないでほしいと思っている。
しかし、欠点や弱点というものは実は自分だけの最良の教師なのだ。(051より)
なぜなら欠点や弱点は、「私たちがなにを克服すべきか」「自分のなにをなおすべきなのか」「自分の長所となんなのか」「自分の個性とはどういうものなのか」などの重要なことを、そっと耳打ちして教えてくれているからです。(『生成の無垢』「心理学的な諸考察」)(051より)
理想さえも超えて行け
ニーチェは、「きみの力のすべてを、きみはまだ知らない」と述べています。もちろん、理想を抱いてそこへと向かっているのかもしれない。けれど、「その理想のある場所がきみの限界地点ではない」のだと。
きみが持つ力はきみが想像する以上に大きく、きみはまだまだ遠くへ行けるのだ。きみの理想を超え、それ以上の憧れの地よりもさらに遠くへ達する力をきみは秘めている。(『生成の無垢』「道徳哲学」)(054より)
行ないが人を築く
わたしたちの一つひとつの行ないが、わたしたち自身を新しく築き、いかようにも変えていく。
どんなことを考えるのか、何を選ぶのか、どういう感情を持つのか、何を信じるのか、何を恐れ、何を軽蔑するのか、何を偽るのか、何をするのか、あるいは何をしないことが多いのか。
これらふだんの一つひとつのわたしたちの生き方と行ないが、自分というものを絶えず築き、また改造していく。心や人間性を変えるだけではない、自分の体をも変える。(055より)
いまの自分はその結果であり、明日の自分はこれからの自分の行ないによって築かれます。(『生成の無垢』「道徳哲学」)(055より)
事実は自分でコントロールできる
いつも、ここに事実がある。この事実に向き合っている。そして、この事実について自分がどう思うかということによって、この事実が初めて価値や色彩を持つ。
つまり、悪く考えるならば、事態は悪くなる。悪くなった事態をどうにかよくするのは簡単なことではない。対処する自分がそれを悪く考えてしまっている限り。(059より)
逆に、事実をよく考えているのならば、その事実は自分にとって、とても扱いやすいものになります。(『曙光』)(059より)
自分への喜び
ある人が「この仕事が最高におもしろい」と友人に言う。別の人は、「なんといってもカヤックでの川下りが最高だ」と言う。
また、ある人は「俳句の奥深さに触れたら、誰でも虜になってしまう」と言う。また別の人は「走っていると、体が本当に喜ぶんだよ」と言う。
別の人は「以前は家事なんかバカにしていたけど、こんなにおもしろくて難しいことはないわよ」と言う。(61より)
みんなそれぞれ、自分が関わっていることがおもしろいと、それらが喜びを与えてくれると思っているわけです。しかし本当は、それらに関わり熱中している自分自身を喜んでいるのだとニーチェはいいます。これは納得できる話です。(『人間的、あまりに人間的』)(61より)
当時の人々の残した書簡や記録によれば、ニーチェは穏やかな人だったようです。声の出し方は静かで、物腰もていねいだったのだとか。しかもそれでいて、潔癖な心の持ち主でもあったそう。「決然とし、燃えるものを抱き、遠くの峰々を凝視していた」というので、本書を通じ、そんな人としてのあり方を学びたいものです。
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作家、書評家、音楽評論家
印南敦史
1962年東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「ライフハッカー・ジャパン」で書評連載を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」「qobuz」などにもエッセイを寄稿。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちにPHP文庫)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)など多数。最新刊は『現代人のための読書入門 本を読むとはどういうことか』(光文社新書)。@innamix/X
Source: ディスカヴァー・トゥエンティワン