僕の人生は、一度、完全に止まった。
持病の潰瘍性大腸炎が再発し、働くことができなくなったからだ。外に出ることもままならず、ただ布団とトイレを行き来するしかない日々。毎日トイレに30回くらい駆け込む。夜もろくに眠れない。働きたいのに働けない。気がつけば1年間の自宅療養になり、その間に貯金もなくなってしまった。
「このままだと本当にまずい。死んでしまう。」
藁にもすがる思いで、何かいい方法はないかと近所の本屋へ。そのとき偶然目に入ったのが『より少ない生き方』(ジョシュア・ベッカー著/かんき出版)という一冊のミニマリスト本だった。
「この生き方ならなんとかなるかもしれない!」
そう思い、即購入。そこで偶然手に取った一冊の本が、僕の人生を大きく変えることになった。
今から約12年前、2015年のことだ。(「はじめに」より)
『人生は「引き算」で軽くなる:ミニマリスト思考で人生を豊かに変える』(ミニマリスト Takeru 著、ぱる出版)の著者は、ミニマリズムとの出会いについてこう振り返っています。
過剰にクローズアップされすぎたこともあり、ミニマリズム/ミニマリストにはブームとして消費し尽くされた感があります。しかし12年前のことだというと、タイミング的には納得できます。
いずれにしても著者はミニマリストとして人生を立てなおすことに成功し、いまも質素な生活を続けているのです。本書のテーマが「人生の重荷を減らすこと」となっているのも、そんな理由があるからです。
もちろん、すべてを捨てる必要はない。でも、少しだけ減らしてみると、人生は驚くほど軽くなるはずだ。そして軽くなった人生には、自然と自由が生まれていく。(「はじめに」より)
こうした考え方に基づく本書のなかから、きょうは第4章「豊かな時間を取り戻すミニマリズム」に焦点を当ててみることにします。
忙しい人ほど、やることを減らしたほうがいい
時間がないと感じている人ほど、「どうすれば、もっと多くのタスクをこなせるか」と考えてしまいがち。ところが実際には、その発想こそが忙しさを生み出している原因のひとつなのだと著者は指摘しています。
たしかに浮いた時間ができると、つい「あれもやろう、これもやろう」と予定を詰め込みたくなるものです。その結果、時間はふたたび埋まり、気づけばまたもとの忙しさに戻ってしまうわけです。
本来、時間に余裕を持たせるために必要なのは、「増やすこと」ではなく「減らすこと」。新しいなにかを取り入れるよりも、不要なものを手放すほうが、いろいろな意味で暮らしは軽くなるのです。(95ページより)
「モノに頼りすぎる生活」をやめる
そこで著者は、いくつかの提案をしています。
まず見直したいのが、「モノに頼りすぎる生活」だ。時間を節約するために、便利な家電やハイテク機器を取り入れること自体は悪いことではない。
しかし、それに頼りすぎると、かえってやることが増えてしまう。モノが増えれば管理の手間が増え、維持するための労力もかかる。さらに、それらを手に入れるために働く時間も必要になる。
だからこそ、モノを増やして時間を生み出そうとする前に、「やることそのものを減らす」という発想が大切である。(96ページより)
つまり「不要なモノを減らすこと」は、余裕を身につけるためのもっともシンプルな方法だということです。
たしかにモノが減れば、かたづけや掃除にかかる時間は自然と減っていきます。そして、「持っているからこそ発生する行動」も減っていくでしょう。したがって家事の負担も軽くなり、余計な労働を生まなくて済むようになるのです。(96ページより)
やらなくていいことを減らす
次に意識したいのが、「やらなくていいことを減らす」という視点である。多くの人は「今日は何をしようか」と足し算で考える。しかし逆に、「今日は何をしなくていいか」と引き算で考えてみる。やらなくても困らないこと、今やらなくてもいいことを一つずつ手放していく。そうすると、最後に残るのは「本当に大切なこと」だけになる。(96〜97ページより)
なお、この時点では「一日に重要なことを2つまでに絞る」というルールを意識したほうがよいそうです。なぜなら、3つ以上に増やすと、どうしても時間に追われてしまうことになるから。時間に余裕を持って行動したいなら、取り入れてみるといいかもしれません。
だから、優先順位の高いものを2つだけ選び、それ以外は思い切って手放す。そして、その2つの重要なことを、午前に1つ、午後に1つと振り分ける。あらかじめ時間帯まで決めておくことで、かなり余裕を持って、迷いなく行動に移すことができる。(97ページより)
重要な複数のタスクを一日に詰め込んでしまうと、結局はどれもが中途半端になってしまいやすいものです。だからこそ、やることを増やすのではなく、あえて制限することが大切なのです。そうすれば、本当に大切なことに集中できるようになることでしょう。(96ページより)
「嫌いなこと」「やりたくないこと」を減らす
さらに大切なのは、「嫌いなこと」「やりたくないこと」を減らすことである。多くの人は「やりたいことを見つけよう」とするが、それは意外と難しい。しかし「やりたくないこと」であれば、すぐに思い浮かぶはずである。だからこそ、目の前の選択肢の中から「やりたくないもの」を先に消していく。残ったものの中から、「これならできそうだ」「少しやってみたい」と思えるものを選べばいい。(97〜98ページより)
つまり大切なのは、「好きなことで生きること」ではなく、「嫌なことで自分をすり減らさないこと」だという考え方。
「こうしたい」というようなあり方を無理に追いかけるよりも、ストレスを減らすほうが、結果的に穏やかな時間を手に入れやすいのでしょう。(97ページより)
「減らす→軽くなる→自由になる→豊かになる」というサイクルを身につけると、人生はどんどん軽くなっていくと著者は強調しています。結果的に、減らせば減らすほど、人生は豊かになるのだとも言います。この考えに興味を持ったなら、本書がきっと前に進むヒントになるはずです。
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作家、書評家、音楽評論家
印南敦史
1962年東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「ライフハッカー・ジャパン」で書評連載を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」「qobuz」などにもエッセイを寄稿。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちにPHP文庫)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)など多数。最新刊は『現代人のための読書入門 本を読むとはどういうことか』(光文社新書)。@innamix/X
Source: ぱる出版