大ヒット商品「∞(むげん)プチプチ」の生みの親であり、AIと人間の発想を掛け合わせた独自のスタイルで活躍するおもちゃクリエイター、高橋晋平さん。
次々とアイデアを生み出す発想法のコツ、そして家族との時間も大切にする柔軟なワークスタイルは、どのように確立されたのでしょうか。
敏腕クリエイターやビジネスパーソンに仕事術を学ぶ「HOW I WORK」シリーズ。今回お話を伺ったのは、ボードゲームやおもちゃのクリエイターとして活躍する高橋晋平さんです。
高橋晋平さんの一問一答
居住地:東京都
現在のコンピュータ: Lenovo IdeaPadシリーズ(2台)
現在のモバイル: iPhone、Android端末(2台持ち)
現在のノートとペン: フリクション、A4白紙
仕事スタイルを一言でいうと: なんでも遊び化
早い段階の試作がカギ
――ゲームの制作といえば、無から有を作るような大変な仕事という印象がありますが、実際はどのように作られているのでしょうか?
ChatGPTを、新作ゲームのたたき台の段階でよく活用しています。たとえば、子ども向けの動物のカードゲームを作ると決めたら、小学生に人気の動物を陸海空別にChatGPTに出してもらい、カードの引き方や効果もリストアップしてもらうとかですね。
もっとも、ChatGPTを使うのはあくまでもヒントを得るためで、そのままゲームを完成させることはありません。それ以降は人間の仕事となります。
アイデアが、だいたい固まったところで、かなり粗い試作品を作成します。
それこそ、エクセルでカードを作って、画用紙にプリントして、ハサミで切った程度のものです。
それで、ともかく遊んでみるのです。
――そこで、実際に遊ぶんですね!!
1人何役かで遊ぶこともあれば、テストプレイしてくれる人に手伝ってもらうこともあります。少しでも早くやってみることが大事です。
試作1本目でおもしろい……ということは、まずありません。ここが変だとか、おもしろくない点が見えるので、修正するサイクルをひたすら回していきます。
完成形に近づいたら、デザイン会社とのやりとりをはじめます。自分がデザインまで手掛けると非効率になるため、そこはその道のプロに任せますね。
ゲームづくりについては、常時8つのプロジェクトを走らせていますが、制作のプロセスは、おおむねこのようにしています。
早朝の起床とともに仕事を開始
――今ではAIで企画やアイデアを生み出すというテーマで企業研修の講師もなされているそうですね。二足の草鞋を履く多忙な日々と思いますが、1日の仕事はどのように進められているのでしょうか?
朝は、5時ごろに起きてすぐ仕事に取り掛かります。
メールをまず処理して、ゲームの制作、企業研修のプログラムを作ることに集中します。
ただ、そのままぶっ通しではありません。6時半頃に小学生の子どもが起床して、登校までの準備を済ませるまで、いったん中断。
8時から仕事の続きを再開します。その後の過ごし方は2パターンあります。10時ぐらいから外部で打ち合わせで外出を重ねるパターンと、終日自室にこもるパターンです。
外出のある日とない日は、切り分けるようにしています。1日の間で混じってしまうと、時間の使い方が細切れになって効率が良くありません。
いずれの場合も、夜7時頃の晩ごはんを合図に、その日の仕事を終えることが多いです。
毎日10分配信する、Voicyは一気に録りたい
――Voicy、note、SNSを通じて精力的に発信されていますが、その時間はどうやりくりしていますか?
Voicyで「1日1アイデア」という切り口で、毎日約10分の放送を続けています。これは、自宅に1人でいるときに1週間分を一気に録りためています。台本があるわけではなく、普段から思いついたネタの箇条書きをもとに、即興で話すかたちです。
話す内容でこだわっているのは、生成AIからすぐには出てこないような内容です。一般的な自己啓発や仕事術の話は、いまや生成AIが作ってしまいます。
それで、あえて仮説や逆説を話すようにしたり。人を笑わせたいという欲求が強いので、おもしろくて笑える話題を積極的に話すようにしています。
アウトプットの習慣を身につけよ
――仕事のパフォーマンスをもっと上げたい、ワンランク上の仕事ができるようになりたいと願っているビジネスパーソンに、おすすめの習慣はありますか?
半ば強制的にでもアウトプットする習慣を身につけるのをおすすめします。
さきほどお話ししたように、Voicyでは生成AIが出せないことを話すので、日頃からアンテナを立てて情報収集することが大事です。おもしろい話を聞いたらメモすると、ふとした気づきも逃さずメモする癖がつきます。
これを繰り返すと、大勢の人は気づいてないであろう、新しい仮説や逆説が出てきます。
それを、SNSでも、ブログでも、自分のメモ帳でも、会った人に話すのでもかまいません。とにかくアウトプットし続けることです。
私は、Voicyでアウトプットを4年続けて、自分が劇的に変わり、アイデアのネタをよく発見するようになりました。ハードルは高いかもしれませんが、このやり方は本当におすすめです。
健康法は長く続けられるかを基準に実践する
――お一人で仕事をされていると、健康であることの大切さを実感されていると思います。何か、実際にやっていて効果を体感している健康法はありますか。
体を動かすことは基本だと思いますが、世の中には、数え切れないほどの運動法があります。その中で、自分が続けられるかどうかを基準にして選ぶのがいいです。
私は、膝をついての腕立て伏せ、横向きに寝て片足を上げる、ふくらはぎを伸ばすといった運動をしています。理由は、無理なく続けられるからです。
どんな健康法も続かないと効果は出ません。著名なトレーナーが推薦しているとかより、自分が続けられるかどうかで、探して実践してみるといいでしょう。
対人関係で怒り・恨みを引き起こさない考え方
――公私に限らず対人関係をうまくこなす、自分なりのコツを教えてください。
脳科学の理論に、自分の意志で行動を決めているつもりでも、その数秒前に脳が既に決めている。だから本来の意味での自由意志は存在しないと言われています。
その真偽はともかく、そういうものだと考えておけば、相手にイラッとする言葉を投げかけられても、「その人の脳がそう言わせている」と達観できます。
それまでの人生で積み重ねてきた体験から、脳が勝手に口を滑らせているわけです。あるいは、単にストレスが溜まっていて、そのはけ口で思わず言ったのかもしれません。
そうして出てきた言葉は、その人の本質ではないのだから、怒ったり、恨んだりする必要性もないわけです。
そう考えると、苦手な相手との対人関係がすごく楽になります。職場でも家庭でも使える方法ですので、試してみてください。
価値観・考え方の相違を受け入れる
――ご自身の人生に影響を与えた本はなんでしょうか?
何冊もありますが、強いてまず1冊挙げるとすれば、D・カーネギーの『人を動かす』です。新装版と完全版の2冊を持っていて、中身は少し異なります。
たとえば、冒頭の「人を動かす三原則」の最初は、新装版では「盗人にも五分の理を認める」ですが、完全版だと「蜂蜜が欲しければ、蜂の巣を蹴るな」です。
言わんとすることは同じで、相手にどんな非があっても非難せず、その人をいい方向に動かすコミュニケーションをとるべきだと書いているのです。
相手の悪い点は、その人の生まれ育った環境や経験、その他いろいろな事情もからみあって出てきたもの。だから、相手の立場に立ってものを考えることの重要性を説くくだりは、共感しますね。
あともう1冊は、奥田秀夫さんの『罪の轍』という、刑事が主人公の犯罪小説です。奥田さんの小説はみな読んでいますが、これは特に傑作です。
罪や悪は実はつながっていて、俺が盗みを働くのは、俺だけのせいではないといった心の叫びが、読み手に響いてくる凄まじい小説です。
仕事で、人と一緒にゲームを作っている時に思うのは、誰もが価値観も考え方も違うし、歩んできた道のりや経験も独自のものだということです。
それを尊重し、話し合うことで相手の内面を理解していけます。ここで挙げた2冊は、そのことを心に根付かせる助けになっていますね。
多くの人の笑顔を引き出す仕事をしたい
――最後に、ご自身の仕事の流儀なり哲学なりを教えてください。
仕事を通じて、自分も含めできるだけ多くの人が笑える時間と機会を少しでも増やすことです。
高校時代まではコミュ症だったのが、大学に進学してお笑いサークルに入ってから、自分の人生が動き出しました。笑うことは素晴らしいことです。人を笑わせることに知恵を絞り、自分も相手も笑えることほど、尊いものはないと考えています。
それは、ゲームを作る原動力にもなっています。ゲームを遊んでいるときに笑ってくれるかどうか、そればかりを考えているようなものです。
つまるところ、笑えるということは、幸せだということです。私が作ったゲームで笑ってもらえたら、私はこの仕事に価値があると思えますしね。
高橋晋平
株式会社ウサギ代表取締役。おもちゃクリエイター。株式会社バンダイを経て2014年より現職。バンダイ時代に「∞(むげん)プチプチ」を生み出し、発売初年度に335万個の大ヒットを記録し、第1回日本おもちゃ大賞を受賞。これまで150以上のおもちゃやゲーム、遊び系事業の企画開発・マーケティングに携わる。アイデア発想に関するTEDトークは世界30か国以上の言語で配信され、200万回以上再生。著書に『1日1アイデア』(KADOKAWA)、『ボードゲームづくり入門』(岩波書店)などがある。