本稿ではクォータニオン(四元数,しげんすう)について解説する.ただし,解説といってもクォータニオンとはなかなか味わい深い数であるので,いろいろな数の物語を通じてクォータニオンに到達しようという趣向である.
本稿は例えば3次元コンピュータグラフィックス(CG)に関わっている人で,クォータニオンが使えるけれどもよくわからないという人(つまりは昔の筆者)を対象にしたつもりであるが,本稿を読むにあたってコンピュータグラフィックスの知識は全く必要ない.
また本稿では,クォータニオンの他にベクトルや複素数の本当の意味も解説する.なぜならクォータニオンとは『ベクトルをたっぷりふりかけ,複素数にどっぷり漬け込み,反エルミート行列でこんがりと焼き上げた』数だからである.これらの事柄は全部本稿で説明した.
一方,本稿では次のことを(クォータニオン理解の基礎ではあるが)説明しなかった.
- 数学基礎論
- 線形代数の基礎
- 2次元の回転行列
- 複素代数の基礎
- オイラーの定理の証明
- 数学記号の由来,読み方 これらの事柄(大学1年生程度)は別の教科書を参考にされたい.
本稿は次のような構成になっている.
- まず2種類の代数方程式を解いてみる.すると,実行列と複素数がそれぞれ登場する.
- 物理学(といっても力学の初歩)の立場から,2次元のベクトルという考え方を導入する.また2次元のベクトルを回転させてみる.
- 少しばかり寄り道をしてブラとフォームが何かを知り,ベクトルの本当の姿をみる.
- 複素数を使うと,2次元の位置(ベクトル)と回転(行列)が同格になることをみる.
- オイラー角による3次元のベクトルの回転を考えてみる.
- 複素行列を使うと,3次元の位置(ベクトル)と回転(行列)がやはり同格になることをみる.
- もうひとつの3次元回転,クォータニオンに触れる.
最後に余談としてスピノールという考え方にも触れる.
ところで,本文中にも触れるが,本稿では次の新しい記号を発明する.
[[a,b]]=a+ib
ここでaとbは実数でありiは虚数単位である.この記号[[a,b]]は実数部aと虚数部bを持つ複素数を作る記号である.
ではさっそくテーブルについて,クォータニオンを賞味しよう.