「岡野、お前の事務所、求人ばっかり出してるけど、そんなに弁護士足りてないのか?」
ベテラン弁護士がワインを片手に、俺を見ながらニヤリと笑う。
「アトムは成長中ですからね、先生。優秀な弁護士を常に探しているだけです。」
「成長ねぇ…でも、そんなに求人を出してるってことは、人材の流出が多いんじゃないか?うまく回ってないんじゃないかと思うんだが。」
まるで俺の事務所が崩壊寸前だとでも言いたげだ。だが、俺は微笑みを絶やさずに答えた。
「いいえ、むしろ安定していますよ。幸い多くのご相談をいただくので、どの支部でも充実した経験を積むことができる環境です。刑事事件も交通事故もバランスよく取り扱って、いつ独立しても活躍できる弁護士を育てているんです。」
ベテラン弁護士は軽く鼻で笑い、ワインを口に運ぶ。
「でも、お前がこれから始めようとしてる離婚や相続なんて、そんなに稼げる分野じゃないだろう?弁護士の労力は大きいが、依頼者がなかなか費用を払ってくれないんじゃないか?」
この質問も、予想通りだ。俺は落ち着いて返す。
「先生のおっしゃる通り、離婚は依頼者が費用負担を躊躇することが多いですね。そのため、今後も引き続き私選の刑事事件と交通事故が柱になっていくでしょう。相続は少しずつ増やしていく予定ですが、アトムでは成果報酬制ですので、効率よく案件を進めることが求められます。」
「効率ねぇ…弁護士が効率効率って言い出すと、質が落ちるって話も聞くが…」
ベテラン弁護士は少し黙り込み、ワインをもう一口飲む。俺の言葉をどう受け取ったのかは分からないが、口元にはまだ微かな笑みが残っている。
俺は背中を口元を見ながら、グラスを軽く揺らした。「このイカれた時代へようこそ」