【衝撃】火山とギャングのカオスな一日

スリル満点の街に滞在しながら、僕は今回の旅の大きなハイライトである「サンタアナ火山」へのトレッキングに挑戦することにしていた。標高2,381メートル、今もなお地球の底からモクモクと白い煙を上げ続けている、現役バリバリの活火山だ。

しかし、大自然の絶景に感動するその前に、僕はサンタアナの街が隠し持つ、あまりにも生々しくて恐ろしい「もう一つの顔」を突きつけられることになる。

電線にぶら下がる「不思議なスニーカー」

朝7時。僕は愛用のバックパックを背負って宿の前に出た。空気はまだ少しひんやりと冷たくて心地よく、絶好の登山日和になりそうな爽やかな朝だった。

「よし、今日も新しい景色を見るために冒険するぞ!」

心の中でそう気合を入れ、綺麗な青空を見上げた。その時、一本の黒い電線に、何かが引っかかっているのが目に入った。

電線に引っかかっている靴

「……ん? あれって、もしかして靴か?」

それは、しっかりと結ばれた、スニーカーだった。電線からぽつんとぶら下がり、朝の涼しい風に吹かれてゆらゆらと揺れている。

最初にそれを見た時は、「誰かの悪ふざけかな? 近所の子供たちが遊んでいて引っかかっちゃったのかな」くらいにしか思わなかった。

ところが、ホテルの周りの路地の電線を見ると、やはりポツンと古い靴が電線から吊るされている。どれもこれも、ボロボロに履き潰されて泥に汚れた、どこか不気味な靴ばかりだ。

「この街特有のおまじないか何かなのだろうか?」

どうしても気になった僕は、火山へ向かう前に一度宿のフロントに戻り、受付にいた現地のフレンドリーなオーナーに聞いてみた。

「ねえ、外の電線にたくさんの靴がぶら下がっているんだけど、あれってこの街の珍しい文化か何かなの?」

それまで「気をつけて行ってくるんだぞ!」とニコニコと愛想よく対応してくれていたオーナーの顔から、一瞬にして笑みが消え去った。

「……おい、アミーゴ。街であれを見かけても、絶対に近くでジロジロ見たり、カメラを向けて写真を撮ったりするんじゃないぞ」

「え? どういうこと……?」

オーナーの目が完全にマジだった。彼は真剣そのものの表情のまま、このサンタアナの街が持つ、衝撃的な事実を教えてくれた。

「あれはな、『ここから先は俺たちの縄張りだ』という、ギャングたちのマーキング(サイン)なんだよ」

ギャングと共存する、エルサルバドルという国の不思議な日常

オーナーの話によると、かつてエルサルバドル全土を恐怖のどん底に陥れていた巨大ギャング組織は、自分たちが支配しているエリアを周囲に示すために、電線に靴を投げ捨てて引っかけるという縄張り表示の文化を持っていたそうだ。

それは、「ここから先は俺たちのエリアだ。敵対する他のギャングや警察どもは、一歩でも足を踏み入れたら命の保証はないぞ」という、絶対的な警告のサインだった。さらに恐ろしいことに、そのスニーカーは「この場所で敵のギャングを実際に殺害した」という、血生臭い戦利品や記念碑のような意味を持つこともあったという。

今見ているスニーカーは、殺された敵対ギャングが履いていたスニーカーだった。

「今の若い大統領が厳しい取り締まりをして、ギャングの奴らは何万人もまとめて巨大な刑務所にぶち込まれた。だから今のサンタアナは驚くほど平和になったのさ。でもな、あの電線に引っかかった靴だけは、高すぎて誰も取れないから今もそのまま残っている。つまり、お前が昨日の夜にのんきに歩き、今こうして泊まっているこのエリアも、ほんの少し前までは彼らが命がけで銃を撃ち合い、お互いの血を流していた本物の戦場だったってことだ」

オーナーはそこまで一気に話すと、「まあ、今は本当に安全だから心配しなくていいよ!」と言って、またいつもの優しい笑顔に戻った。

何気ない旅の日常の風景の中に、信じられないほどの狂気と暴力のサインが当たり前のように溶け込んでいる。緊張感を持って、この国を旅しようと決心して、火山へと向かった。

爆音のチキンバスに乗り、標高2,000メートルの大自然へ!

サンタアナ市から、乗り換えなしで、サンタアナ火山までいける。僕は鼓膜が破れるぐらい大音量のラテン音楽が流れる、中南米の旅ではおなじみのボロボロのバスに乗った。

窓からの景色がどんどん変わっていくにつれて、僕の心の中にあった緊張は少しずつ軽くなっていった。排気ガスまみれのコンクリートの街が遠ざかり、目の前には広大なコーヒー農園が広がっていたからだ。

標高が上がるにつれて窓から入ってくる風が、驚くほど涼しい。さっき街の中で見た「ギャングの靴」の恐怖が、大自然の圧倒的なエネルギーによって、少しずつ消されていった。

約2時間の激しいドライブを経て、バスは山頂トレッキングのスタート地点である「セロ・ヴェルデ国立公園」の駐車場に無事到着した。

セロ・ヴェルデ国立公園

しかし、ここで僕はエルサルバドルならではの「超厳重すぎる安全対策」を再び体験することになる。

このサンタアナ火山、なんと観光客が個人で勝手に登ることは法律で禁止されているのだ。登山を開始するためには、必ず現地の専属ガイドと、そして何より驚いたことに、背中に本物の自動小銃(アサルトライフル)背負ったツーリスト専用の警察が同行するシステムになっていた。

「おいおい、ただのハイキングにまで、そんな戦争に使うようなライフルを持っていくのかよ……」

ガイドの陽気なおじさんが僕にこう言った。

「心配するな!これは森にいる野生動物や、万が一山の中に潜んでいるかもしれない強盗から守るためのものさ。安心してこの大自然を楽しんでくれ!」

本物のライフルを持った男たちにガチガチに守られながら登る、美しい火山。たまに強盗が現れ、外国人が襲われるという、どこまでもエルサルバドルという国は、僕たち日本人が持っている「安全」や「日常の常識」という概念を、ユーモアと少しの恐怖を交えながら容赦なくぶち壊してくれる。

まるで別の惑星を旅するようなトレッキング

「さあ、みんな準備はいいか? 頂上の火口までは片道約3時間の冒険だ。しっかりついてきてくれよ!」

ガイドの合図とともに、世界中から集まった一癖も二癖もありそうなタフなバックパッカーたちと一斉に歩き出した。

歩くペースはかなり早めだが、メキシコやグアテマラで散々しごかれて鍛えられてきたので、自分でも驚くほど簡単に火口付近まで歩くことが出来た。日頃からストイックに行っているトレーニングの成果が、こんなところで発揮されるとは思わなかった。

頂上には、言葉にならないほどの壮大な絶景が広がっていた。はるか下方には、吸い込まれそうなほど深い神秘的なコバルトブルーをした巨大なカルデラ湖が、太陽の光を浴びてキラキラとエメラルドのように輝いていたのだ。

「うわあ、信じられないくらい綺麗だ……」

その美しさに圧倒され、足の疲れが一気に吹き飛んでいくのが分かった。自然が持つ癒やしの力は、時にどんなサウナや瞑想よりもダイレクトに心に響く。

そして、僕の目の前の視界は、言葉を完全に失ってしまうほどの、圧倒的で恐ろしい「異世界」が存在していた。

火口ギリギリの深淵。怪しく光る蛍光エメラルドグリーンの酸性湖

「ウワオ……何だこれは……!!」

「オーマイゴッド、信じられない……!」

周囲の屈強な外国人バックパッカーたちからも、次々とため息混じりの驚きの声が上がった。全員が言葉を失い、ただ目の前の光景を呆然と見つめている。

僕の足元は、そのまま垂直に数百メートルも底へと続いてる火口(クレーター)のまさにエッジだった。当然のことながら、安全のためのフェンスやロープなんて気の利いたものは、ここには一切存在しない。あと一歩、前に踏み出してしまえば、そのまま奈落の底へ真っ逆さまに落ちて二度と戻ってこられないような、リアルな恐怖の場所だ。

そして何より僕の目を釘付けにしたのは、その巨大な火口の底に、信じられないほど鮮やかで、まるで合成写真のように光り輝く蛍光エメラルドグリーンの酸性湖が、不気味に、広がっていたことだった。

水面からは、真っ白な硫黄の湯気がモクモクと立ち上がっている。耳を澄ますと、時折「ゴボゴボ……」という、地球の底の底から煮えたぎるマグマの重低音が聞こえてくる。

このサンタアナ火山は、決して眠っている山ではない。実は2005年にも突然の大噴火を起こし、大量の死傷者を出している、現在進行形で生きている「活火山」なのだ。

今、僕がこうして立っている山頂のフチだって、次の瞬間に大爆発を起こして真っ黒な火砕流に飲み込まれても何らおかしくはない場所。「いつ噴火するか分からない」という、圧倒的な死の可能性が常にある。

火山とギャング。生と死が極限で隣り合わせの国で、僕が学んだこと

ゴーゴーと鳴り響く風の音と、時折足元から響くマグマの音を聞きながら、僕は今日一日の強烈すぎる出来事を、頭の中でゆっくりと整理していた。

朝、サンタアナの街の宿の前で見上げた、凶悪ギャングたちの縄張りを示すギャングたちの「靴」。

そして今、僕の目の前でグツグツと不気味に煮えたぎる、いつ爆発するか分からない「活火山」。

この一見すると全く関係のなさそうな、暴力と大自然の驚異という二つのものには、どこか奇妙で、そして非常に深い共通点があるように思えてならなかった。

それは、「圧倒的な死の危険が、すぐ隣にある」ということだ。

日本という、世界で最も安全で恵まれた環境にいると、僕たちはまるで「死」なんて自分には一生関係のない遠い出来事であるかのように、生活ができる。それはとても幸せで、ありがたいことだ。

しかし、このエルサルバドルという国では全く違う。ギャングに支配された街で、今日も大笑いしながら名物のププサを食べて、いつ大噴火してすべてを焼き尽くすか分からない火山の麓で、毎日せっせと暮らしている。

死のリスクや、人生の終わりというものがこれほどまでに見えやすく、生々しくすぐそばにあるからこそ、この国の人々は今、この瞬間を精一杯に生きている。

朝のギャングの張り詰めた街の緊張感から、昼の火山の圧倒的な大自然のカタルシスへ。

さあ、次は一体どんな刺激的なカオスが、僕の旅を待っているのだろうか。

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