BAKUTAN代表小森谷周大さん。
撮影:三ツ村崇志
「『学生寮』のように世界中の学生コミュニティをつなげて、学生の挑戦を形にできる環境をつくりたい」
そう話すのは、現役東大生起業家の小森谷周大さん(19)だ。
小森谷さんは2023年8月、東京大学や京都大学、慶應義塾大学などを中心に、英・ケンブリッジ大学などの海外有名大学も含めた学生を約200人集めたベータ版のオンラインコミュニティを開設。現在、ベータ版で構築したコミュニティの「世界版」の公開に向けた準備を広げており、この春には事業化に向けて起業した。
立ち上げた会社の名前は「BAKUTAN」。
国内外問わず世界のトップ人材が集まる学生寮のようなコミュニティを構築し、そこでの出会いを通じて社会にさまざまな価値を「爆誕」させようとしている。2024年1月には、Business Insider Japanが発表した社会課題に取り組むZ世代やミレニアル世代の才能や取り組みを表彰するアワード「BEYOND MILLENNIALS(ビヨンド・ミレニアルズ)2024」にも選出された。
「差を見せつけられた」日本と海外の違い
中学3年生の頃、コロンビア大学のサマースクールに参加した際の写真。
画像:小森谷さん提供
「アイデアを持っていたり、スキルがあったり、これから社会に価値を出したい若者がいた時に、日本にはスピーディーにアウトプットできる環境や一緒に作る仲間を探す環境がないと思ったんです。私たちが作っているのは、そういった学生同士や企業がつながって交流できるようなプラットフォームです」
小森谷さんは、BAKUTANを立ち上げたきっかけをこう語る。
幼少期にアメリカやイギリスで生活していた小森谷さん。帰国後、日本と海外での違いにちょっとした違和感を感じ続けていたという。それをはっきりと自覚することになったのは、中学3年生の頃だった。
当時通学していた名門私立・開成中学校で、たまたまアメリカのコロンビア大学のサマースクールに参加することになった小森谷さんは、日本と海外のギャップを痛感した。
「アウトプットのスピード感や、自分に足りないものがあったときに他人とチームをつくってプロトタイプを作る発想など、全然違いました。
日本の場合、できないことがあると頑張って自分で補おうとしがちですが、海外では足りない部分はできる人に声をかけてチームを作って形にしていく」
日本と比較して学生のスキルが全員飛び抜けて高いというわけではない。ただそれでも、日本と違って次々と新しいことが生み出される環境がそこにはあった。
「こういう環境ってどうすれば日本で作れるんだろう……そう考えたのが、最初のきっかけです」
開成、東大にもなかったイノベーションを生む環境
撮影:三ツ村崇志
サマースクールから帰国後、開成高等学校を経て小森谷さんは2023年に東京大学に入学する。小森谷さん自身、開成や東大という国内トップクラスの人材が集まる環境に身を置いていたはずだが、海外で衝撃を受けた「イノベーションが生まれる環境」は整っていないと感じるという。
日本の場合、テストの点数が評価・判断基準として重視される受験システムの弊害もあると小森谷さんは話す。
「(受験システムには)いい面、悪い面があると思っています。
東大でも1〜2年次の成績を基に進路を決める通称『進振り制度』があるのですが、平均点が取りやすい講義に寄りやすくなってしまっていると感じます。自分と向き合って本当にやりたいことを追求しにくい側面もあると思うんです」(小森谷さん)
ただ、ちょっとしたきっかけで、新たなチャレンジへの一歩を踏み出せることも多い。現状だと「自分ってやりたいことがあるのかもしれない。これって実現できるかもしれない」と、メタ視点での気づきを得る機会自体がそもそも少ない、というのが小森谷さんの問題意識だ。
「東大が日本トップの大学だというのなら、もっと主体的にできることがあると思うんです。スタンダードを上げていかないと、本当のリーダーとは言えない。そういう課題感があると思っています」
こうして小森谷さんが東大入学後2023年の夏に友人たち数名と協力して立ち上げたのが、BAKUTANの原型となるオンラインコミュニティだった。
「挑戦者」が集うコミュニティ
β版を立ち上げた際にメンバーを募集したチラシ。
撮影:三ツ村崇志、画像提供BAKUTAN
「自分がやりたいことに気がつくのがファーストステップです。次はそれをどう形にするかですが、そこで足りないのが『How』(ノウハウ)の部分だと思っています」
小森谷さんが2023年の8月にリリースしたベータ版のBAKUTANは、新たなチャレンジに踏み出そうとしている人が集うプラットフォームだ。
ただ、「新たなチャレンジに踏み出そうとしている人」とはいえ、人によって状況は異なる。スキルややる気はあってもアイデアがない人もいれば、アイデアややる気はあってもスキルが不足している人もいる。スキルやモチベーションにもグラデーションがある。
小森谷さんは、そういった「多様な挑戦したい人」を集めたコミュニティを構築。自分に不足しているスキルやマインドセットを持つ人との化学反応によって「新しいこと」が起きたり、自分の1歩先、2歩先を進んでいる人や企業と巡り合うことで情報を得られたりすることを期待する。
「夜中に適当に集まって、『いまこんなことやってるんだよね』と話しをしたり、その中で自分が次にアクションすべきことをアドバイスしてもらったり、『それならこいつが詳しいよ』と人とつながったり……。そういう『学生寮』のような場を作りたかった」
チャレンジしたい気持ちを持つ学生にとって、同志となる仲間を見つけ、明日やることを知れるコミュニティだ。
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ベータ版では、日本ベースでコミュニティを形成。東大生や京大生などを中心に、社会課題解決やAI、ディープテック(研究開発型スタートアップ)に興味を持っている「挑戦したい人」が集まった。コミュニティを作る上で意識したのは、プラットフォーム上で「すぐに話す空気づくり」だ。
参加者は自分が興味のあることや活動していることをタイムラインに投稿。コミュニティの参加者はそれを見て気になる人にコンタクトを取る。「友達申請」や「フォロー」といった既存のSNSにありがちな形式ではなく、まず「ミーティングを設定する(会って話す)」という仕様にした。
「挑戦している人同士がつながれるSNSはあまりなかったので、良い検証になりました。ただ、実際に挑戦する段階まで一気通貫で全部やるのはハードルが高かったんです。だから、事業として切り離してやっていくことにしました」
「東大」「海外有名大」はラベルにしか過ぎない
BAKUTANの事業概念図。
画像:BAKUTAN
この春、小森谷さんはBAKUTANを法人化した。
ベータ版として作ってきた「挑戦したい人が集まる」コミュニティに、海外を中心とした学生を取り込んで発展させていくと共に、世界のトップ大学の人材などとの接点を持ちたい企業を巻き込み、学生と企業のマッチングを事業化する。
ベータ版のコミュニティ運営の中では、試験的にNTTデータとIT領域における採用課題に対するアプローチを学生参画型のプロジェクトとして検討。参加学生からの施策提案を実現する段階まで企業に伴走してもらった。
「学生だけだと絶対にできないことですし、学生の知見を踏まえたプロジェクトは企業サイドとしてもこれまでやりにくかったと思います」
企業にとっては、国内外の優秀学生が集うコミュニティに参加することで、将来的な採用につなげられるメリットもあるはずだという。
そこで問われるのは、本当に小森谷さんが言うようなグローバルトップ人材が集まる優秀な学生コミュニティを醸成できるかどうかだ。ベータ版では東大・京大などの学生が約半数近く。本格リリース段階では、海外大学からの参加割合を50〜60%程度にまでは高めたいと小森谷さんは話す。
ただ、「東大生」や「海外有名大学」はあくまでも「ラベル」にしか過ぎない。
小森谷さんが作りたいのは、挑戦したい人たちがちゃんと前に進むためのヒントを得られる環境をつくることだ。そういった意味で、「コミュニティに参加している学生の需要に応じられる形で企業には参画してほしい」と小森谷さんは言う。
日本だと、有名大学の名前に注目されることが多いが、「有名大学の人材を抱えること」が目的ではない。作りたいのはあくまでも、挑戦しようとしている学生たちの集まりだ。
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グローバルを目指すスタートアップの「人材プール」に
サービスローンチ前ではあるものの、取材段階ですでに日本を起点にグローバル展開している大企業を含めた5社と話を進めている。
日本では、スタートアップ育成五か年計画の下でグローバルスタートアップの創出が期待されている。実際、東大をはじめ、さまざまな大学などで起業する事例は増えているが、実際問題としていきなりグローバルな事業やチーム作りをするのはハードルが高い。
小森谷さんは、自分たちの事業はまだこれから頑張らなきゃいけないフェーズだとした上で、展望をこう話す。
「今、国内で企業している人たちがIPOなどを経て2週目に入るときに、今度は最初からグローバルスタートアップを目指そうとするはずです。そのとき、どこで仲間を見つけるか。3年後、僕らが作ったコミュニティに参加すれば、海外も含めた優秀な学生とすぐチームアップできる。そういうタイムスパンで事業を成長させていきたいと考えています」