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目を覚ましたとき、あなたは深海にいた。
なぜここにいるのか、覚えていない。いつ来たのかも、覚えていない。覚えているのは一つだけ。
「先に見つけろ。見つけなければ、すべてを失う」
その声が誰のものかも、覚えていなかった。
深海には365本の十字架が沈んでいる。
ピンク色に光る墓標。あなたは潜水艦を走らせた。最初の十字架に触れた。
「2025.01.01」
日付だ。1年分の日付が、墓標になって沈んでいる。あなたの2025年だ。あなたの365日だ。
取り戻さなければ。
赤い光が見えた。
もう一隻の潜水艦。触れた十字架は灰色に変わり、光を失った。
「忘却」
その名前が頭に浮かんだ。あいつは忘却だ。あいつに取られた日は、二度と戻らない。
あなたは「記憶」だ。
負けられない。
73日目を見つけた。3月14日。
光が変わる瞬間、何かが頭をよぎった。朝の光。誰かの声。温かい何か。
それだけだった。24時間あったはずの1日が、3秒の断片になっていた。
おかしい。取り戻したはずなのに。十字架は確かに光っている。なのに、その日のほとんどが、ない。
そして気づいた。
十字架を見つけるたびに、自分の輪郭がぼやけている。
148日目を見つけた。5月28日。
何も思い出せなかった。その日、何があったのか。まったくわからない。日付だけが光っている。
また輪郭がぼやけた。
手を見た。少しだけ透けている気がした。
忘却が近づいてきた。
あなたは逃げた。追いかけられた。219日目の十字架のそばを通り過ぎた。
忘却が触れた。灰色になった。8月7日。忘却のものになった。
悔しかった。
でも、輪郭が少しだけはっきりした気がした。
あなたは気づき始めていた。
見つけるたびに、何かを得ている。でも、何かを失ってもいる。
失っているのは、日付ではなかった。
自分自身だった。
深海には目があった。7つの目。何も言わずに見ている。
「あなたは時間を探しているのですか」
声が響いた。
「それとも時間に探されているのですか」
答えなかった。答えを知りたくなかった。
300日を超えた。
あなたは187日を持っていた。忘却は178日を持っていた。
勝っている。
でも、自分の顔が思い出せなくなっていた。
自分の名前が思い出せなくなっていた。
深海に来る前、どこにいたのか。思い出せなくなっていた。
350日を超えた。
忘却の動きが遅くなっていた。あなたは差を広げた。
361日目。362日目。363日目。
あと2つ。
364日目を見つけた。
振り返った。忘却が遠くで止まっていた。動かなかった。
最後の1つ。365日目。12月31日。
あなたは泳いだ。
触れた。
光った。
「2025.12.31」
終わった。
365日すべてを、あなたが見つけた。忘却は負けた。あなたが勝った。
忘却を見た。
灰色になっていた。潜水艦ごと。動かなかった。十字架と同じ色だった。
忘却が消えていく。負けたから。すべてを失ったから。
あなたは勝った。
ふと、最初の声を思い出そうとした。
「先に見つけろ。見つけなければ、すべてを失う」
誰の声だったか。
思い出せなかった。
自分の名前を思い出そうとした。
思い出せなかった。
自分の顔を思い出そうとした。
思い出せなかった。
手を見た。
透けていた。
365日を見つけた。365日分の記憶を取り戻した。
でも、記憶を取り戻すたびに、自分を削っていた。
365回、自分を削った。
もう何も残っていなかった。
勝ったのに、消えていく。
忘却を倒したのに、消えていく。
365日を手に入れたのに、それを覚えている自分がいない。
最後に見えたのは、7つの目だった。
何も言わなかった。
ただ、見ていた。
深海には何もなくなった。
十字架は全部見つかった。見つけた者は消えた。見つけられた者も消えた。
記憶はいない。
忘却もいない。
365日もない。
でも、深海はあった。
誰もいない深海。何も沈んでいない深海。
静かだった。
暗かった。
でも、そこには水があった。水は動いていた。
時間が経っていた。
誰も覚えていない。
誰も忘れていない。
それでも、何かは続いていた。
ここは、時間の墓場だった。
今は違う。
墓標のない海。
記憶のない海。
忘却のない海。
名前がない。
意味がない。
目的がない。
でも、
ここ。