42歳母たちの「保活」

  • X
  • facebook
  • hatena-bookmark

「非会社員」で入園するには

 自分の「保活」を総括するに、周囲の状況に翻弄(ほんろう)されるばかりで、準備不足の面が多々あったように感じる。これに対し、同級生の高齢出産仲間の1人、東京都杉並区の脚本家、土方直美さん(42=仮名)が展開した「保活」は、極めて戦略的なものだった。

 高校時代は、演劇部で活躍。バブル景気下の大学では、テニスサークルで「華やかなキャンパスライフ」を楽しみ、演劇からは少し離れた。卒業後、一般企業に就職したが、すぐに、演劇への思いが再燃。約40倍の難関を突破し俳優座養成所に入所した。同養成所は1年ほどで去ることになるが、その後も、舞台、テレビで女優として演じ続けた。

  しかし29歳になった2000年頃、体力などの面から、女優業に向いていないと思うようになる。「もう最後にしよう」と考えていた舞台の打ち上げ。少し酔っていた。そこに偶然、知り合いの脚本家から電話があり、思い切って「脚本をやってみたい」と、心の中で考えていたことを打ち明けることができた。ほどなく、その脚本家に弟子入り。ラジオドラマや企画書の執筆などで研さんを積んだ。05年、オリジナルの脚本でデビュー。現在は、テレビドラマのほか、アニメの脚本も手掛けている。

 そして13年5月、第1子となる男児を産んだ。会社員とは違い、フリーランスの脚本家には産休も育休もない。仕事を続けていくには、どうすればよいか。出産前から、保育園入園のための入門書を購入して研究。妊娠5カ月のころには、区役所を直接訪ねた。

 区役所の保育課で担当者の話を聞き、まず衝撃を受けたのは、自分がこのまま申し込みをした場合、同区の選考基準では、今後仕事に就く予定の人を対象とした「就労内定」に区分されるということ。フルタイムの会社員が20点なのに対し、就労内定は14点。全国的にも「保活激戦区」として知られる杉並区で6点の差は絶望的だ。どうすればよいか。担当者にアドバイスを請うた。

 担当者によれば、14年1月に実施される入園選考会の時点で、2カ月以上就労を続けている状態であれば、「就労内定」ではなく、社長、代表者として家業を営んでいる人らを対象とした「自営業・中心者」(20点)に区分できる。さらに、認可外保育園などに、1日4時間以上で月12日以上、有償で2カ月以上預けている実績があれば、加点1が付く。21点なら、過去の例からも入園承諾の可能性は高いという。

 まだ出産から半年しかたっていない。こんなに早くから、子どもを預けて仕事をすることに、迷いはあった。しかし、今回入園できなければ、今後チャンスはないと考え、アドバイス通りに実行した。13年11月1日に仕事を再開。翌春にBSで放送されるドラマの脚本などを引き受けた。脚本の執筆は、ただ机上で書くだけではなく、関係者との打ち合わせも多い。このときは、大阪出張もあり、乳腺炎の激痛にも悩まされた。

 「働いています」ということを示すため、会社員などであれば、所定の用紙に仕事内容や勤務時間を、雇用主に記載してもらい、提出するだけで済む。しかし、フリーの場合は、「仕事内容や仕事量が分かるもの」を自ら集めなければならない。請け負った脚本について、クライアントとのメールのやりとりをパソコン画面上で印刷したり、書いたストーリーを添付したりして、書類を作成。11月から、1日8時間以上で月20日以上のフルタイムと同等、またはそれ以上の仕事をしたということの証明書として提出した。

 その結果、14年2月14日、第1希望への入園承諾の通知を受けた。そして、執筆したドラマも、BSでは異例の高視聴率だったという。保育園も仕事も、苦労が実を結んだ形だ。

 しかし、同じだけ仕事をしていても、なぜ会社員とこれほど違うのかー。「保活」を通じて感じた釈然としない思いは、今でもくすぶっている。

特集・新着

旬のトピックス

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ